現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 映画・音楽・芸能
  4. コラム
  5. 漫画偏愛主義
  6. 記事

株ぢから(佐久間智代)

2009年7月31日

  • 筆者 松尾慈子

写真株ぢから[作]佐久間智代

 そろそろ東京の湾岸では舞踏会の季節だわ。またの名をコミック・マーケット(略称コミケ)、国内最大の同人誌即売会ね。今年もまた私は舞踏会には行けないの。ああ、シンデレラみたいにだれかが私をカボチャの馬車に乗せて連れて行ってくれないかしら…。

 だからというわけではないが、同人誌系の作家がエッセーコミックを出したので買ってみた。佐久間智代…「ばかにゃん」で「壁」なのよね…と一般の人には意味不明なつぶやきをしてしまうわ。「ばかにゃん」というのは、コミケに参加するための佐久間のサークル名で、作家名とは別モノ。「壁」というのは、買う人が殺到するサークルは、人をさばくために壁際の場所に売り場が配置されるため、大手サークルのことを「壁サークル」という。以上、腐女子のオタク用語解説でした。

 以前から佐久間の趣味が株というのは知っていたが、漫画家で「株をする」と公言している人はなかなかいないのではあるまいか。それは多分、本業以外でガツガツ稼いでいる、というマイナスイメージを読者に与えるからではなかろうか。私も、「私が本を買うことで、彼女に印税が入り、それで彼女が株を買ってもうけるのか」と思うと複雑な心境ではあった。しかし内幕は違った。佐久間は、「株は趣味! 株主優待を楽しむ! 証券会社とのやりとりを楽しむ!」としている。だからサブタイトルが「儲けるだけが株じゃない」なのね。投資信託、転換社債、TOBなど、私には意味不明だった言葉が分かりやすく解説されているので、経済オンチな方への解説本としてもオススメだ。ちなみに、佐久間は07年時点で投資額の2割損をしていたという。どうです、「不労所得でウハウハ」ではない、血涙流しながら株で遊ぶダメ投資家の物語、読んでみたくありませんか?

 佐久間は10数年前、初めて投資信託をして大損をこき、次にトヨタの転換社債を購入。そしてトヨタでも大損こくのだが、「トヨタは好きなデザインをしているから損をしてても応援したくなる」と考え、「大損してもいい 自分が信じられる銘柄を選ぼう それなら納得できる」との境地に達する。その後は、「この店おいしい」「お弁当おいしい」と外食産業の銘柄を中心に買い、株主優待券ににんまりし、優待をねらいすぎて高値になった株を売り逃したりする投資生活をしている。デニーズ株は経営統合により上場廃止になり、すかいらーく株はTOBを無視しているうちに非上場になるなど、佐久間が遭遇した株遍歴を追うことで、素人にはわかりにくかった企業統合の内情を知ることもできる。自画像がアライグマなのも、さらっと読みやすい。

 告白するが、実は私も株に手を出している。もう10年以上前からで、始めた動機は「株を買ったら、経済に関心のない私でも多少は興味がわくのでは」と思ったからだった。やはり自分の身銭を切っているからか、買った後は日経平均や円高などには多少敏感になった。が根が無精なために、自分が株を持っていることすら忘れて、売り時を逃しまくっていた。数年前から弊社社員は「インサイダー取引を疑われるようなまねはするな。なるべく株売買をするべからず。したいならば売買の期間を半年以上あけるべし」と通達されているので、現在はほぼ塩漬け状態、というか、自分の銘柄は大暴落のあおりを受けて大損状態だ。そうなの、佐久間も書いてるけど、「株は自己責任で!」。楽しいと思える範囲でならオススメしますが、普通、人はそこまで割り切れないので、ホントは私、人にはオススメしません、株取引。この漫画を読んで楽しむ程度にしておきましょうよ、と現在大損こいてる私は痛切に思うのだ。

プロフィール

写真

松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内