現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 映画・音楽・芸能
  4. コラム
  5. 漫画偏愛主義
  6. 記事

オトダマ[音霊](新田祐克)

2009年8月14日

  • 筆者 松尾慈子

写真オトダマ(音霊)[作]新田祐克

 盗作問題で活動を自粛していた新田祐克が、約1年半ぶりに新刊を出した。端正な絵柄と力のあるストーリー展開は健在で、復帰第一作としての新田の気合いを感じた。死人の声まで聞き取れる特殊な聴覚の持ち主・音無要(おとなしかなめ)を主人公としたホラーミステリーだ。新田はボーイズラブ(BL)作家として有名だが、これはBLではないのでご安心を。

 今回でた2巻では、科学警察研究所勤務時代の要が登場し、相棒で探偵の永妻恭秀との絆を生んだ悲しい事件が描かれる。要の姉で永妻の婚約者・結(ゆい)が連続殺人の被害者となり、絶望の中で要たちは犯人を捜し出す。捜査を担当する永妻の兄・恭優と恭秀の確執など複雑に絡み合った人間関係や、要の聴覚能力などを生かして犯人を絞り込んでいく緊迫した物語展開など、新田らしい力作に仕上がっている。

 しかし、話の展開はホントに新田作品らしい「力業(ちからわざ)」なのだ。犯人の残すメッセージや犯行の動機にしても、「そりゃ〜ないだろ〜」ってツッコミたくなるのだが、精密な絵柄と主人公たちの大まじめさに押されて、つい納得してしまう。直木賞作家の三浦しをんが言うところの「設定はツッコミどころ満載のファンタジーなんだが、リアルな絵柄がそれをファンタジーと認識させない」(三浦しをんエッセー「シュミじゃないんだ」より抜粋)のだ。

 いや、本当に新田は絵の細部まで力を抜かない。盗作問題というのは、ファッションブランドの広告や雑誌などから構図をそのままトレースして漫画やイラストに使っていたことなのだが、正直、新田の絵柄がこれほど緻密でなかったら、盗作と気づかれなかったかも、とちょっと思う。それに、雑な絵柄の作家だったら、トレースした絵柄をそのまま漫画に取り込んでも使えないと思うのよ。盗作問題検証サイトをみてびっくりしたよ、ブランドの広告そのままトレースして、それが新田の絵柄になってるんだもん。

 さて、今回、「オトダマ」を取り上げるにあたって、復帰の経緯を知ろうとサイトを探してみた。しかし、なんにもない。本人の公式サイトも閉鎖のままだし。どっかに本人コメントしたの? それともいきなり雑誌ウイングスで連載を始めたの? 分からないままだった。関係各所への謝罪と著作権問題をクリアしたってことでの復帰なのかしら。

 とりあえず、新田がものすごいパワーのある作家であることは間違いないので、私はその復帰を喜びたい。いや、「オトダマ」はBLではなくて大まじめな作品なんだけど、ほかのBL作品、たとえば「春を抱いていた」なんて売れっ子AV男優2人が恋人同士になって公表したら世間に歓迎されちゃって、外国で結婚式まであげちゃった、という話なんだよ。「オイオイ」ってツッコミたくなるお話のはずが、圧倒的なパワーに押されて読まされちゃうんだよねえ、これが(これを読んでいる男性読者が引いていく様子が目に浮かびますが…)。

 どうでもいいけど、今回の2巻についている帯。銀色で美しいのだが、特殊加工がしてあって、シュリンカー(本屋でよく包んであるあの透明なビニールのことね)をはずしたら帯のビニール加工がはがれてしまってちょっと悲しい。美しいものははかないのね。

プロフィール

写真

松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内