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君の天井は僕の床(鴨居まさね)

2009年11月6日

  • 筆者 松尾慈子

表紙君の天井は僕の床[作]鴨居まさね

 漫画好きな方なら「鴨居まさねの漫画がおもしろいことなんて知ってるよ!」と叫ばれることだろう。そう、私も何度かこのコラムでご紹介してきた。しかし本書、主人公が42歳なんですよ! アラフォー世代が最近注目されているとはいえ、恋愛漫画の主人公が42歳。世代の近い私としては、共感しまくり。ぜひ紹介させていただきたい。

 主人公のトリさんは印刷物のデザイナー。借りている事務所の屋上に遊びに来るネコの飼い主・本間とトリさんの恋がよたよたと始まっていくさまが、周囲の人々の悲喜こもごも交えて描かれる。タイトルの意味は、事務所が3階で、その上の屋上に遊びに来るのがネコと本間さんなので、トリさんの天井が本間の床なワケだ。入居しているビルの1階はネコ友達のつけ麺屋と腕の立つハンコ屋、トリさんと本間の仲を取り持つ時計のベルト屋は、かつてはその2階の店子だった、というご近所物語でもある。本間の飼い猫・フミヤ、つけ麺屋の若い猫スジャータなど、猫たちもいい脇役ぶりを発揮している。

 周囲の後押しもあり、第1話のラストでようやく接近したトリさんと本間。本間の自宅にお呼ばれするものの、トリさんは玄関まで来ながら「もったいなくなって入れなかった」。そう、20代30代といろいろ経験を積んだあとの恋愛だからこそ、一気にすべてを駆け抜けてしまいそうなわけだ。お友達から1日で恋人、翌日にはすでにベテラン夫婦の風格、が目に浮かぶ。それも悪くはないけれど、ふとした触れあいだけでもドキドキできる時間って貴重だから、と踏みとどまる。それが周囲の人たちをさらにやきもきさせるのだが、本人たちはあくまでのんびり。コミックス1冊分かけてようやくラストにキスなんだもの! 本間は、鴨居作品によく出てくるヘタレ男子の典型なのではあるが、彼がもう41歳って設定なんだもんなあ。私も年をとるもんだ(関係ないか)。

 鴨居作品の良さは、その人柄のよい登場人物たちにあるのだが、それに加えて、話の端々で感じさせる細部のリアリティーにある。今回も、「大工道具とF1を一緒に彫って〜」という無茶な依頼を受けるハンコやさん、困った客に強く出られないオーナーが経営するつけ麺やさん、などなど、実際にこの職業の人たちに取材したんだろうな〜と感じさせるエピソードがさりげなくはさまれている。「黒水牛でって注文されたけど冬はケバだって彫りにくいんですよね」なんて、職人さんに聞かなければ知らないぼやきだろう。

 しかしショックだったのは、主人公の老眼鏡。「40歳すぎると小さい字がチェックしづらくなって」だそうだが、本当だとすると、私もあと1年でそうなるってこと? いま、ちょっと漫画とか読みにくいと思っていたのはその先触れ!? と寂しくなった。

 ともあれ、ゆったりすすむアラフォー世代のラブストーリー。のんびりと読めて、おすすめだ。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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