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さよならキャラバン(草間さかえ)

2009年12月4日

  • 筆者 松尾慈子

表紙さよならキャラバン[作]草間さかえ

 ボーイズラブジャンルで活躍していた草間が、初めてのヘテロ(男女恋愛)漫画コミックスを出した。表題作は「レトロでちょっと不思議」という草間の持ち味を出しつつ、思春期らしい不安定だけれども混じりけのない恋を描いた秀作に仕上がっている。高校生の恋愛あり、年の差恋愛あり、そして草間の得意ジャンルである怪奇モノありの9編を集めた短編集だ。

 名前にそぐわず高所恐怖症の高校生・羽田翔は、休み時間ごとに意中の女の子を口説きに別クラスへ通う。熱心なその様子をみていた転校生・アヤコは思う。「彼がもし求愛する鳥なら 私が教えてあげようか それはハリボテの鳥だって そしたらどこへだって 飛んでいける?」

 自分がなぜそんなことを思うのか分からないままアヤコはすぐに学校最後の日を迎える。アヤコは旅を続けるサーカスの団員で、羽田の学校にいるのは1カ月だけ。アヤコに恋愛幻想を打ち砕かれた羽田はその後、空を舞うように飛ぶアヤコに一瞬で魅せられる。

 移り気だけれども一瞬一瞬の気持ちは混じりけがない、10代特有のまっすぐさが読んでいて気持ちいい。タイムリミットがあることで生まれる切なさと、サーカスというちょっとレトロな設定で、作品全体が不思議な雰囲気につつまれている。30ページの短編ながら、様々な要素がぎゅっとつまっている。

 同時収録の短編「比良坂町よもやま怪談」は、草間の得意ジャンルである怪奇ものだ。黒猫が活躍し、過去と未来、そして子供が行き来する。草間は商業誌デビュー前、同人誌を書いていたころに繰り返しこのモチーフを描いていたが、やはりこれが草間の原点なんだろうか。フリーハンドの背景と、コマとコマとの間にすき間がない特有の画面構成も、彼女独特の世界を作り上げることに役立っている。

 物語と絵柄のクセが強い草間なので、これまでのBL読者もきっと好き嫌いが分かれるところだったと思うが、「さよならキャラバン」はとても読みやすく、かつ草間らしい作品になっている。掲載誌が「flowers」だけあって、編集者が草間の持ち味を生かしつつ一般向けに誘導するのがうまかったのだろうか、とちょっと思った。

 ところで私は疑問に思うのだが、最近草間のようにBL分野の人気漫画家がヘテロ漫画雑誌に活動の場をうつしているのは、商業的にヘテロ漫画の方がよく売れるからだろうか。数年前の噂だが、あるメジャーな少女漫画家が編集者に「いまはボーイズラブの方が売れるから、そっちをかいてくれ」と頼まれたと聞いたことがある。その漫画家はそのシュミがないので断ったと聞くが、真相はどうなのだろう。確かに時折、「この作家、BLが好きじゃないのに描いてるんだろうなあ」と感じさせるBL作品もみられるのだが、別に、BL読者はBLなら何でもいいってワケじゃあないんだけどなあ。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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