現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 映画・音楽・芸能
  4. コラム
  5. 漫画偏愛主義
  6. 記事

乙嫁語り(森薫)

2010年1月22日

  • 筆者 松尾慈子

写真乙嫁語り[作]森薫

 19世紀英国を舞台にしたメイド漫画「エマ」で人気を博した森薫。期待と不安をもって次回作を待っていたが、新作は予想を遙かに超えた秀作だった。舞台は19世紀、カスピ海周辺の地方都市。山を越えてやってきた花嫁のアミルは20歳。花婿は12歳の少年カルルク。ふたりが8歳の年の差を超えて愛をはぐくんでいくブライド・ストーリーだ。 当時の結婚適齢期は15、6歳。年かさの花嫁を心配する周囲をよそにカルルクは「僕はアミルがもっと若かったらとか全然思ってないからね」とアミルに告げる。アミルもまた12歳の夫に尽くし、カルルクが風邪をひいただけでもうろたえてしまう様子がかわいらしい。大家族の中でともに暮らし、平原を馬で駆け、二人は絆を深めていく。相変わらず森の画面の描き込みぶりはすごい。細部にいたるまで手を抜かない。アミルが狩りをする場面は、もうその緊迫感に読んでいる私まで息を潜めてしまう。しとめた狐の絵柄はさわると毛皮の手触りがしそうだ。正直いって人物像は「イマドキのオタク絵」という印象で、敬遠される方も多いかもしれないが、食わず嫌いはもったいないので是非手に取ってみて欲しい。

 しかし、多くの日本人にはなじみがないであろうこの地域。なぜ森がこれを題材にしたかというと、中学高校時代にシルクロードにハマっていたそう。そうか、シルクロードか。背景の資料探しやら時代考証やらがさぞかし大変だろうと思ったが、森にしてみれば「じゃらじゃらじゃらじゃら じゅうたんじゅうたん むしろじゅうたん!」だそうで、・・・そうか、描き込むのも資料読むのも好きなんだ。情熱ってすごいなあ。アミルのキャラクターは「姉さん女房、野性、天然、強い、でも乙女」。森のシュミを全部ぶちこんだキャラクター作りだそうで、確かに、このアミル、強く美しく、かわいらしい。反面、12歳にしてはしっかりしているカルルクではあるが、まだ1巻ではなんの活躍もしてないので今後に期待したい。

 まったく話は変わるが、ようやく「ダ・ヴィンチ殿堂入りコミックランキング150」(メディアファクトリー)を読んだ。総合1位は誰もが納得の「SLAM DUNK」(井上雄彦)で、そのほかもほとんどが納得いく内容ではあった。だがしかし、なぜ私が青春を注いだ「エイリアン通り」(成田美名子)が入っていないの? 当時の漫画読み女子はみな金髪でナイーブな少年シャール君(主人公)に夢中だったのではないの? 98年度のランキングにも入ってない・・・世代の差だろうか。しばし愕然とする私であった。

プロフィール

写真

松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

検索フォーム
キーワード:


朝日新聞購読のご案内