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坊主DAYS(杜康潤)

2010年2月19日

  • 筆者 松尾慈子

写真坊主DAYS[作]杜康潤

 坊さんといえば、頭の中には映画「ファンシイダンス」(周防正行監督・89年作品)で本木雅弘が演じた修行僧が一番に浮かんでくるような、罰当たりな私である。本書を読み終え、「お坊さんたちとは、実はこんなに厳しい修行に耐えた人々であったのか」と今更ながらに頭が下がる思いがした。著者の実家は禅の宗派に属する「臨済宗(りんざいしゅう)」のお寺で、本書は寺での生活や著者の実兄が修行僧だったころの様子を描いた、お坊さんについてのコミックエッセーなのだ。葬式で戒名をさずけてバカ高いお布施をいただく「坊主丸儲け!」のイメージしかないみなさん、ぜひ手にとってみてください。

 本書のメーンは寺の住職である実兄の修行時代。起床は午前3時、その後は座禅、読経、老師との問答、作務。寝られるのは夜中の11時だから睡眠時間は約4時間。持ち物は修行に最低限必要なものだけ、もちろん携帯電話は禁止。それが基本的には最低2年は続くというのだから、俗世にまみれた生活をしている私にはとても耐えられそうにない。

 そして、やはり気になるのは食生活。超ストイックなのかと思いきや、意外にバラエティーに富んでいるらしい。体重60キロでがりがりだった兄は、入門4カ月で72キロの超マッチョに変身したのだという。僧門での原則は「出された飯は一切残すな」。味付けが変だろうが、10人前だろうが、出された料理はすべてたいらげる。新人が「米って洗うんだったよな」と洗剤で米を洗って炊いたが、それももちろん残せない。基本はおかゆ、麦飯、雑炊の質素な食事だが、一方で、大事な修行の日には先輩が気を利かせてカレーを作ってくれ、托鉢(たくはつ)でいただけば肉を食べることもある。そしてまさかり持って薪割りなどしていれば、筋肉ムキムキになるわけだ。

 このようにお坊さんの世界を教えてくれる本書なのだが、注目すべきはやはり兄のキャラクターだろう。早くに実父を亡くし、数千の檀家(だんか)を持つ寺の跡継ぎとして自覚をもちつづけていた兄。修行の厳しさを伝えるドキュメンタリー番組をみて、おびえる著者をよそに、淡々と見続けたという兄はとっくに腹をくくっていたのだろう。「母子家庭だから心配で」と実家に近い修業先を選ぶなんて、なんてかっこいいんだ。二年半の修行期間を「もっと修行したかった」と終えるあたりは、本当に頭が下がる。運命を受け入れて生きる潔さを兄から教えられる。

 あまりの修行の厳しさにすっかり尻込みした私だが、日本の仏教界では修行の厳しさは臨済宗がトップクラスなんだそうだ。坊さんのだれもがこんな経験を積んでいるわけではないのね。本書で修行の様子は分かったが、お坊さんたちの主な仕事は葬式や法事、檀家とのおつきあいであろう。もし次作があるならそのあたりをもっとつっこんで描いてもらいたい。

プロフィール

写真

松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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