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卒業生(中村明日美子)

2010年3月5日

  • 筆者 松尾慈子

写真卒業生[作]中村明日美子

 前作「同級生」の続編が、「冬」と「春」という2冊になって出版された。成績優秀な佐条と金髪ギター少年・草壁の恋のその後を描いている。とはいえ、前作を読んでいなくても楽しめる。卒業という別れが迫る中、二人の距離が少しずつ近づいていく様は、10代特有の刹那的なきらめきに満ちている。私のように実年齢は青春まっただ中の人でない人には10代の恋を懐かしく思い出させてくれる作品だろう。今回もボーイズラブです、お許しを。

 真面目めがね少年の佐条は、同級の草壁と合唱の練習を機に恋人同士に。京大志望の佐条と、本格的に音楽の道へ進みたい草壁はなんとか時間をやりくりして付き合いを続けている。でも関係はキスどまり。ホテルで二人きり、いいところになりそうなところで、「お前に進路があるように僕にも進路があるんだから」と佐条は予備校に行ってしまう。そんなときも「たまには勉強より俺を優先して」とだだをこねないあたりが草壁もエライ。お互いに相手の進路を大事にするところが、この主人公たちのエライところだ。佐条の母親の入院や受験などの障害をこえながら、二人は関係を深めていく。

 脇役の存在感も捨てがたい。恋愛モノに必須な存在であるライバルとして、佐条に横恋慕する音楽教員・原が登場するのだが、彼もいい味をだしている。原は佐条に歌の追試を課して二人きりになるなど、職権乱用して接近しつつも、結局は佐条の心が草壁にあることが分かっているので腰がひけてしまう。佐条に手袋をプレゼントした秘密は「俺の誕生日だから もらってもらう」ってのが片恋らしくていい。また、草壁の親友・谷が、二人の関係を受け入れつつも「なんかからかいたくなるんだよね」と佐条にホラを吹き込むあたり、男子高校生らしくて笑わせてくれる。とりたてて大事件があるわけでもない物語なのだが、それぞれの人物の存在感が物語を引き立てている。

 東京と京都の遠距離恋愛になる焦りや、相手の立場の違い。変わっていく状況の中で、お互いに必死に相手を思っている姿がさらりと描かれていて、久々に学園モノらしい恋愛物語を楽しませてくれる。

 ちなみに、この2冊を買って帯の応募券を送ると、小冊子をもらえることになっている。私はさっそく応募したのだが、オタク友達にいうと「・・・う〜ん、コピーして読ませて」という。「だって、この二人って別れそうなんだもん、作者の作風からいっても」。そうね、、ハッピーエンドが鉄則のボーイズラブ界だが、中村明日美子って、ハッピーエンドが似合わないような作風なんだよね。絵柄が耽美っぽいからかしら? 小冊子で見事ハッピーエンドにしてくれ! 中村明日美子!

プロフィール

写真

松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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