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嘘みたいな話ですが(腰乃)

2010年3月19日

  • 筆者 松尾慈子

写真嘘みたいな話ですが[作]腰乃

 「非実在青少年」の性表現を規制する条例改正案が、東京都議会で話し合われている。「非実在青少年」とは聞き慣れない言葉だが、要するに、漫画やアニメに登場する18歳未満のキャラクターをさすらしい。非実在青少年の「性交や性交類似行為を肯定的に描写」し、「子供の性に関する健全な判断能力の形成を阻害するおそれがあるもの」に対し、18歳未満への販売や貸し出しを自主規制するよう求めているという。

 エロスへの欲求が、創造や思索への壮大なるパワーになることを、都議会のみなさんたちは忘れてしまったのだろうか。私は中学生時代にめぐりあった「風と木の詩」(竹宮惠子・少年愛作品として金字塔的な作品)、「トーマの心臓」(萩尾望都・同じく少年愛作品の金字塔)で、10代の少年たちの性に自分を重ね合わせ、初めて性を我がこととして考えた。ほとんど脳みそを使わずに生きていた私に、初めて「思索」というものを教えたのはこの2つの作品だった。読了し、私が漠然と感じていた生きづらさは、性にまつわるものだったのかと考え、書物を開き、女性の生き方についても考えた。この2つがなければ、私は大学に行くことも、新聞記者になることもなかっただろう。

 結局、この「東京都青少年健全育成条例改正案」は継続審議となるようだ。改正案では単純所持まで規制対象となるそうで、審議の行方に目が離せない。

 さて、この話を出した後で何を取り上げようか考えて、ボーイズラブ界で人気急上昇の腰乃にしてみた。正直いって、この人の作品全部、性描写が激しい、というか生々しい。本書はサラリーマンものだからいいようなものの、学園ものだったら、絶対規制対象になるだろう。でも、この人の作品は、なぜか心引かれるものがあるのだ。新刊コミックスを読むたびに「今回もエロが濃かったわ」と思いつつ、また次が出ると買ってしまうような不思議な魅力が、腰乃にはあるのだ。

 登場人物たち全員に一癖があり、それがなんだか、自分のそばにも実在していそうなリアリティーを生んでいる。男前な北川先輩に、心底惚れている後輩の中村。その惚れっぷりがクセモノで、日夜、酒瓶を先輩に見立てて告白を練習し、職場でこっそり先輩を盗撮して、耳をつけたりしっぽをつけたりした合成画像にして保存する。一途なのは分かるが、ちょっと変態入ってるよ! っていうところが、かわいらしいというかいとおしいというか。帯に「もじもじしながら妄想して 謝りながら発情しますが何か?」とあるが、そのままのキャラクターだ。中村みたいな愛情と性欲がセットになっている人物が、腰乃作品にはよく登場する。「感情をぶつけるのは恥ずかしいこと」なんていう大人の常識がないところが、いっそすがしがしい。腰乃作品はエロあり笑いありで盛りだくさんなので、ボーイズラブに嫌悪感がないかた、エロ覚悟でどうぞ手に取ってみてください。

プロフィール

写真

松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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