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テルマエ・ロマエ(ヤマザキマリ)

2010年4月16日

  • 筆者 松尾慈子

表紙テルマエ・ロマエ[作]ヤマザキマリ

 「マンガ大賞2010」を受賞し、各メディアでも大反響の本書。マンガ好きの方ならすでにご存じかと思うが、私も最近になってようやく読んで感銘を受けたので、ぜひ紹介させてほしい。前回で「good!アフタヌーン」祭りと掲げておきながら、すみません。

 舞台は紀元128年の古代ローマ、公衆浴場の設計技師・ルシウスはアイディアに悩んでいると、なぜか現代の日本にタイムスリップしてしまう体質に。しかし、場所は風呂限定。あるときは日本の銭湯に、あるときは露天風呂に、あるときは湯治場に、風呂を介して時を超え現代日本に来たルシウスは、巨大な一枚板の鏡やプラスチック素材など、見たこともない物たちの技術の高さにうちのめされる。だがその敗北感にめげず、日本の風呂文化を古代ローマに持ち帰って浴場を設計、大人気を博すようになる。

 確かに、古代ローマ人にとって、現代日本の風呂まわりは驚きだろう。ルシウスがウォシュレットと出会ったときの描写が秀逸だ。個室に入ったとたん開く便器のふたと流れる音楽に驚き、「便をするだけのために、何人の奴隷を使っているのだ!?」と驚愕する。そして、用便後、突然尻にあたった水に驚き「何をするか 無礼者!」。そりゃあまあ、突然水がお尻にあたったら、誰だって驚くよねえ。

 ルシウスの仕事熱心さも笑いを誘う。冷たく冷やされたフルーツ牛乳、均整のとれた形をした牛乳ビン、柔らかな温泉タマゴ。すべてがルシウスにとっては驚きで、「自分は浴場の技師としてすべての知恵と努力を注いできたと思っていたがそれは愚かな自負にすぎなかった」と絶望感に打ちのめされる。だが「他民族の学ぶべき文明を学ぶのは明日のローマのため!」と立ち直ってあらゆる物を記憶に刻むのだ。

 確かに、現代日本って風呂への欲求が高いよねえ、風呂なんて、ただの垢を落とすだけの場所のはずが、テレビ見たり、飲食したり。「快楽追求の熟練度はローマ人の比ではない」とルシウスが驚くわけだよ。

 かつて私が様々な国を旅行していたとき、地中海沿岸のローマ時代の遺跡には必ず風呂があるのを疑問に思っていたが、そうか、ローマ人は今の日本人のように深く風呂を愛していたのね。ルシウスは日本人を「平たい顔族」と名付けたが、我々とあなたはとっても似ているのよ〜〜。

 本書の中の文章で触れているが、作者はイタリアで学生生活をすごし、現在はポルトガル在住とか。その結果が、この濃厚な古代ローマのマンガなわけだ。作者のブログによると、これからは古代ローマの生活に視点をおいて話が進むようだ。1巻の最後で嫁に逃げられたルシウスの行く末が気になってたまらないぞ。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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