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繊細に率直に下心 真空片戀パック(河内遙)

2010年5月28日

  • 筆者 松尾慈子

表紙真空片戀パック[作]河内遙

 このコラムを足かけ7年も書いているが、私は出版界との縁はあまりない。むしろ、ほとんどない、という方が正しい。書いていてちょっと悲しくなるのだが、そんな中、ただ一人、毎号雑誌を送り続けてくださるのが、白泉社のNさんである。そのNさんの担当雑誌「シルキー」で、「注目の新鋭」と紹介され、「お、これはなかなかイイかも」と思っていたのが、河内遙だった。

 その河内が、あれよアレよという間にデビューコミックスを含め4冊を4出版社が刊行というリレーフェアが開催されたのが昨年の話で、そして今春にまた5社リレーフェアで5冊連続刊行された。「うわ、大型新人だったのね」と驚いたが、実はデビュー10年の実力派。少女漫画からエロマンガまで幅広いジャンルで活躍するゆえにキャッチコピーは「マンガ界のアンファン・テリブル(恐るべき子ども)」だそうで。確かにそれぞれ味が違う。

 本書は高校を舞台にした恋物語と初期作品を集めた短編集。表題作は、脱力系の女性教師・小野と、その彼女が気になって仕方ないメガネ男子・桜井の恋物語だ。レディース雑誌「シルキー」に掲載されただけあって、ほかのコミックスの作品より毒が弱いというか、ちょっと甘めに仕上げてある。

 桜井は雨の朝にスキップしながら登校する小野を目撃する。「大人なのに」と思う一方で、なぜか目が離せなくなる。職員室でカップめんをすすり、「オトナってとんでもなく オトナらしくないもんかもよ」と余裕しゃくしゃくで能書きたれる小野に恋に落ちる。

 表題作は桜井からの目線で描かれ、その後を描いた短編「本は見ていた」は小野の目線で描かれている。10年ぶりに母校に赴任したことで、小野の心は時々制服を着ていた時代にタイムスリップしてしまう。それなのに、桜井を見て「あたし この子… 押したおしたくて たまんない この下心 『オバサン』だと痛感するなあ」。女子高生のように繊細に、おばさんのように率直に、小野の恋心はつのっていく。

 河内作品では「関根くんの恋」(太田出版)もなかなかいい。イケメンエリートのくせに、鈍感・受け身・器用貧乏がたたってピントのずれた人生を送ってきた男・関根を描いている。しかし、その残念っぷりがあまりにリアルで読んでいて切なくなるのだ。胸が痛くなっても構わない方は、こちらもぜひどうぞ。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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