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そう、記者って地味なのよ ゴーガイ!(飛鳥あると)

2010年6月11日

  • 筆者 松尾慈子

写真ゴーガイ! 岩手チャグチャグ新聞社[作]飛鳥あると

 新聞記者をやっていてよく思うのは、「世の中の人は新聞記者を誤解している」ということだ。2時間ドラマなどではたびたび新聞記者が連続殺人事件を解明すべく旅をしている。はっきり言っておこう。「ありえませんから!」。新聞記者が殺人事件を解決したり、行方不明の人を探したり……って、できませんから! 新聞記者も結局は会社員。日々取材をして締め切り時間までに原稿を書き上げ、デスクに怒られ、その合間に次の取材の予定を入れ……。毎日が地味な作業の積み重ねなのだ。

 その点、本書「ゴーガイ! 岩手チャグチャグ新聞社」は地方新聞・岩手日報が取材協力しているだけあって、記者の地味〜な仕事について正確に描かれている、というかその地味さ加減が切なくなるほどだ。

 岩手チャグチャグ新聞社に勤務する27歳の坂東さきるは、岩手県南部の支局へ赴任する。支局での仕事は、朝昼夜のサツまわり(警察官と関係をつくるため+事件事故がないか確認のため、警察署へ足を運ぶこと)、役所の発表モノ、ファクスや電話で届く行事予定や取材の依頼を取捨選択したうえ取材し、当然ながら原稿は即日出稿、しかも締め切りは午後3時(例外あり)。

 さきるがこれらの仕事をこなしつつ、遠野や平泉、花巻など岩手県の観光地を取材でめぐり、地元の人たちとふれあっていく様子が描かれている。いつも仏頂面の支局長・小田原の冷静なツッコミ、日本を愛するドイツ人・イヴァンが勝手に取材に同行、などなどでさきるの日々はどたばたと過ぎていく。全5話で、1話ごとに岩手県の観光情報記事も掲載され、岩手県在住だという著者の熱い郷土愛を感じるコミックスになっている。

 確かに新聞記者の中には、毎日ハイヤーに乗って取材先を移動し、各社と特ダネ競争をしている人もいる。しかし、大部分はそうではなく、私を含め地味な仕事をしている。支局長の小田原は言うのだ。「地方紙の支局なんてさらに地味な存在だからな。じゃあ強みは何か?」。「『見てきたようなハイジャックの記事』ではなく『実際にこの目で見た稲刈りの記事』が書けることだ」。これに対してさきるはビミョーな反応で返してしまうのだが、これが本質だと思う。私なんて、1面アタマ(その日の新聞のトップ記事)も1社アタマ(事件などが載る社会面のトップ記事)も書いたことないし、大事件の現場に呼ばれたこともないけど、それでも記者だし!

 本書は正直いうと、ストーリー性にしても人物像の描き方にしても「あともう一歩」という感じがあるのだが、それはさておいて、新聞社を舞台に地味なマンガを描いてくれたことを感謝したい。ついでにいうなら、本書中の新聞記事がちゃんと新聞の文章になっているのにも注目したい。これを書いたのはきっと岩手日報の記者さんだろう。私にとって岩手県マンガといえば「とりぱん」(講談社・とりのなん子)だったが、本書を読んで観光地もちゃんと勉強できたぞ!

プロフィール

写真

松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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