現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 映画・音楽・芸能
  4. コラム
  5. 漫画偏愛主義
  6. 記事

非癒やし系ネコのシニカルな笑い ハードナッツ(大竹とも)

2010年9月17日

  • 筆者 松尾慈子

写真ハードナッツ[作]大竹とも(光文社)イラスト(C)大竹とも/光文社

 やってくれました、アナーキストの大竹とも! 本書はネコをテーマにした4コマギャグ漫画でありながら、帯の文句は「おれの仕事は癒(いや)しじゃない」! 世に多くある、飼い主視点の漫画や、見ているだけで癒やされるかわいいネコ漫画とはひと味違う。本書の主人公ナッツはあくまでもネコらしく人生(ネコ生?)を生きている。あるときは自分の縄張りを巡回に行き、あるときはエサやりを放棄して旅行に出かけた飼い主に抗議し、あまつさえ、1巻の途中では飼い主を替えるのだ。「かわいさゼロ」のネコが放つシニカルな笑いに浸って欲しい。

 大竹ともといえば、寡作ではあるが、少女漫画やボーイズラブジャンルで活躍していた。一応は少女漫画であるはずの「今はサヨナラ」(実業之日本社)では、日常から逃亡しようとする主婦とその女に誘拐される女子高生、殺人者である男をかくまう気の弱いサラリーマンなど、平凡そうでありながらどこかに闇がある人物像を描いてきていた。その危うさが私は結構気に入っていたが、新作がなかなかでないので気にかけていた。

 数年前、美容院で渡されて読んだ「週刊女性自身」を読んで驚いた。大竹がネコ漫画を描いているではないか。普段の私なら決して手にしない女性誌で連載しているなんて、そりゃ私が気づかないはずだよ、と思いながら、単行本になるのを待っていたのである。04年の連載開始から、この4月でようやくの単行本化、しかも2巻同時発売だという。しかし、うちの近所の本屋では置いてなかったから全然気づかなかったよ〜。旅先での偶然の出会いに乾杯〜。

 本書の主人公ナッツは、自転車のかごに入っているところを、サエない男子学生の田中に拾われる。田中のダメ生活に心でツッコミを入れるなどハードボイルドに生きるつもりが、なぜか野良の子猫に懐かれ、近所のボスネコにはボコボコにされる毎日。飼い主の田中はというと、バイトをクビになってヒマのあまり家の中を紙テープで飾ってみたりと、やる気の方向がまったく間違っているダメっぷりだ。

 そして、ある日突然、ナッツは飼い主を替える。というか、もともとの飼い主がナッツを見つけ、家に連れ帰る。そしてもちろんナッツはその生活を受け入れて、田中を捜しに出かけたりはしない。本来の飼い主は主婦・ちよ子とそのだんなと中学1年の息子。残された田中は「猫が帰ってきません 挨拶(あいさつ)もありませんでした 元気にしていればいいなと思います」で終わる。読み返してみると、確かに田中は「ナッツ」と呼んだこともなく、ナッツに名付けもしていなかった。ちよ子宅に移ってからは、ちよ子ファミリーの生活が多く描かれるようになるが、掃除洗濯炊事と終わることのない家事をちょっと愚痴りつつこなすちよ子の姿は、それはそれで味があって楽しく読める。誠実に対応しているのになぜかちよ子を怒らせてしまうだんなもいい味だしている。

 そして本書では各ページの下に「インチキメッセージ」があって、これがまた読ませるというか、独特なメッセージで、考えさせられるのだ。「お母さん子がラッキーパーソン(9点)」、「力の限り手拍子を打て(6点)」、「羨(うらや)ましがられないスペシャリスト(2点)」「どうにでも曲がる体と心(7点)」と、ワケが分からない文章とともに、今日の読者への点数がついている。この脈絡のない文章を考えるのって、作者的には楽しいの? 苦しいんじゃないの? と疑問だったが、作者の個人サイトをのぞいてみると「耳から煙吹くほど真剣に考えた駄文」だそうだ。そうか、そうだよね、こんなくだらない事をサービスとして真面目に考えるから、私は大竹が好きなのよ。

プロフィール

写真

松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

検索フォーム

朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内 事業・サービス紹介