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いまどき貴重な清らか主人公 人造動物園(山田ミネコ)

2010年10月15日

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写真:人造動物園[作]山田ミネコ(朝日新聞出版)人造動物園[作]山田ミネコ(朝日新聞出版)

写真:(C)山田ミネコ/朝日新聞出版拡大(C)山田ミネコ/朝日新聞出版

 70年代の少女漫画に革命をもたらした24年組の一人に数えられる山田ミネコ、久々の新刊だ。いや、竹宮惠子や萩尾望都らほかの24年組に比べると、山田の知名度は圧倒的に低く、きっとコラム読者の皆様の中でも、知る方はそう多くはないだろう。それは多分、山田の30年近く変わらないこの絵柄と、主な分野がSFファンタジーだったためもあるだろうが、なぜか山田作品は私の心を捕らえて離さないのだ。今回も偏愛ゆえにご紹介させていただきたい。

 声優を目指す女子高生・花梨は横浜にある喫茶店「大神官亭」でバイトをすることになった。しかしこの店、店長に白い羽はあるし、やってくる客はどうも人間でないようだ。なんと、夜になると、異世界の生物たちがやってくるお店だったのだ。やがて花梨は、自分が異世界の生物を支配できる「真実の声」の持ち主であることを知り、自らも異世界へと足を踏み込んでゆく。

 ああ、かわいい女の子と異世界、そして甘いお菓子。昔と変わらぬ山田らしい作品だ。私は中学生のころ山田にハマっていて、確か当時5〜600円した雑誌「リュウ」(徳間書店)を、月1千円というわずかな小遣いの中から買っていたなあ。いや、私は20歳になるまで小遣いで服を買ったことがなくて、小遣いはいつも余っていたから、中学生にとってはあんな高価な雑誌が買えたんだよなあ……うう、自らのオタク歴史を思い出してしまったよ。

 本題に戻ろう。なぜ私が山田作品に心ひかれるか。それは主人公の心の清らかさにあるのではないかと思う。

 本書で花梨は「真実の声」を持つゆえに、異世界のイケメン大神官から初対面で「世界の安定のために」と求婚され、その場で恋に落ちる。相手の外見の美しさで恋に落ちるという短絡さと表裏一体ではあるのだが、山田作品の多くの主人公たちはとても純真かつ無邪気で、正義感にあふれ、世界は正しくあるべきだと信じている。そこには信念とか気負ったものではなく、「それが当然だから」という力強さがあり、そこに私はひかれるのだと思う。花梨もまた、いたずらをする異世界生物をいましめ、150年間眠り続けなければならない大神官の任務に心を痛める。そうするのが彼女にとって当然だからだ。心理描写が深い漫画がもてはやされる昨今、逆に、山田作品の主人公たちの明るさは貴重だと思う。

 著者からのメッセージで山田は「なんだか久々に『ああ、漫画家ってこんなに忙しかったんだーっ』と思っています。仕事以外の事が殆(ほとん)ど何もできません。充実感バリバリです」と書いていた。持病でしばらく漫画からは遠ざかっていたらしい。体が許すならばこれからも昔のような活躍を期待したい。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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