現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 映画・音楽・芸能
  4. コラム
  5. 漫画偏愛主義
  6. 記事

イケメン贋作家は名探偵 胡桃の中(川唯東子)

2010年11月12日

印刷印刷用画面を開く

Check

このエントリーをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

写真:「胡桃の中」[作]川唯東子(リブレ)「胡桃の中」[作]川唯東子(リブレ)

写真:「胡桃の中」より (C)Toko Kawai/Libre Publishing 2010拡大「胡桃の中」より (C)Toko Kawai/Libre Publishing 2010

写真:「胡桃の中」より (C)Toko Kawai/Libre Publishing 2010拡大「胡桃の中」より (C)Toko Kawai/Libre Publishing 2010

写真:「胡桃の中」より (C)Toko Kawai/Libre Publishing 2010拡大「胡桃の中」より (C)Toko Kawai/Libre Publishing 2010

写真:「胡桃の中」より (C)Toko Kawai/Libre Publishing 2010拡大「胡桃の中」より (C)Toko Kawai/Libre Publishing 2010

 いや、まさかこの本の続刊が読めるとは。ボーイズラブ(BL)界の重鎮出版社ビブロスから1巻が出たのが02年。2巻が出た後にビブロスは倒産。ビブロスを引き継いだリブレ出版から新装版がでて終わりかと思っていたから、書店でこの3巻を見つけた時の驚きと喜びといったら!

 しかし、掲載誌がBL誌「BE−Boy」から、季刊誌「クロフネZERO」に変わってる! ということは、谷崎と中居の仲は愛情ではなく友情になっているというの!? はやる心を抑えつつ、3巻を読了して納得。ラブの要素がなくても十分に読み応えのある物語となっていた。というわけで、当初はBLでしたが、3巻ではすでにBLではなくなっています。そして、1話完結のシリーズ連作なので3巻から読み始めても大丈夫。男性諸兄も安心してお読みください。

 実は美形なのだが普段はもっさりした外見の谷崎は画廊「胡桃(くるみ)の中」の2代目オーナー。だがその裏の顔は「天才贋作(がんさく)家」。友人で新進映像作家の中居とともに、絵画にまつわる事件に巻き込まれ、それを見事解決していく。

 こう書くと贋作家で美術界のブラックマーケットにも通じた主人公が活躍する青年漫画「ギャラリーフェイク」(細野不二彦)を連想させるかもしれないが、本書はそれほどハードではない。人間嫌いの谷崎は、絵画に込められた情念や裏の事情も知ったうえで高みの見物を決め込むポーズをとりつつ、結局、事件解決に持ち込んでしまうお人よしなのだ。素直で明るい中居とはいいコンビになっている。

 10月に出た3巻では、特に10話が、有名芸術家の逸話をうまく生かした作品になっている。

 谷崎は画廊の倉庫で女性の肖像画を見つける。その裏には画廊の初代オーナー、谷崎の祖父の字で「まるでロセッティ」と書かれていた。ラファエル前派の画家であり詩人ロセッティは亡き妻の死を悼み、書きためていた詩の草稿と妻の棺に納めて埋葬した。けれども妻の死後スランプに陥ったロセッティは8年後に墓を掘り返し、その草稿をもとに詩集を出版したという。

 ある日、右腕のない一人の男が狂気に満ちた状態で谷崎のもとを訪れ、「自分の描いた肖像画を探している」という。妻の墓に一緒に埋葬したが、もう一度肖像画を取りだそうと夜中に墓を暴いたが見つからなかったのだという。その話を聞き、「芸術家が自分のエゴのために墓をあけるなんて」と谷崎はロセッティを連想する。倉庫で見つけたあの肖像画は男の探す絵だった。

 その後、男は事故で右腕を失ったこと、絵のために墓を暴いたことなどを演出して、テレビに出演する。人生を切り売りしてまで有名になろうとする画家をみて、谷崎は「ホント 芸術家ってのはしょうがねえイキモノだな」と切り捨てるが、話を聞いた中居は「勝手すぎるけど あの絵と一緒にそこに込められた愛も時代を超えて残る」と肯定してみせる。贋作家であることで芸術に対して素直な感情をもてなくなっている谷崎だが、天真爛漫(らんまん)な中居の存在で救われている。

 3巻のあとがきで作者は本書のことを「シュミ100%の漫画」をと言い切っている。こんな参考文献をたくさん読まなくてはいけないような作品が、シュミ100%だとは! 川唯はずいぶんな美術好きだとお見受けする。次巻でさらなる練り上げられた作品を期待したい。

プロフィール

写真

松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

検索フォーム

朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内 事業・サービス紹介