現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 映画・音楽・芸能
  4. コラム
  5. 漫画偏愛主義
  6. 記事

サスペンス導く「記憶喪失」 シックス ハーフ(池谷理香子)

2010年12月10日

印刷印刷用画面を開く

Check

このエントリーをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

写真:「シックス ハーフ」[作]池谷理香子(集英社)「シックス ハーフ」[作]池谷理香子(集英社)

写真:「シックス ハーフ」(C)池谷理香子/集英社拡大「シックス ハーフ」(C)池谷理香子/集英社

写真:「シックス ハーフ」(C)池谷理香子/集英社拡大「シックス ハーフ」(C)池谷理香子/集英社

写真:「シックス ハーフ」(C)池谷理香子/集英社拡大「シックス ハーフ」(C)池谷理香子/集英社

写真:「シックス ハーフ」(C)池谷理香子/集英社拡大「シックス ハーフ」(C)池谷理香子/集英社

 私が20代のころ毎月買っていた雑誌「Young YOU」で活躍していた池谷理香子。休刊になって縁遠くなっていたが、本作が漫画好きの間で話題を呼んでいるので、先日、実に約20年ぶりに池谷作品を読んでみた。主人公は女子高生、しかも「記憶喪失モノ」。「どうよ、この設定」と思いつつ読んでみたら……意外や意外、引き込まれてしまい、2巻は11月に出たばかりというのに、続刊を待ち望んでいる私がいる。詩織はどうなっちゃうの? 昔の詩織は本当はどんな子だったの?

 16歳の詩織は、バイクの事故で頭を打ち、自分に関する記憶を全部失ってしまう。名前も家族も思い出せないまま、兄・昭夫と妹・真歩のいる家での3人暮らしが始まった。病死した父とは折り合いが悪く、派手な化粧で夜遊びを繰り返していたという以前の自分。彼氏だという年下の開(かい)には無理やり襲われかけ、妹には「喋(しゃべ)ると腐った根性 伝染(うつ)るから」と拒絶される。混乱する気持ちの中で、いつも笑顔で見守ってくれる兄の昭夫だけが詩織の心の支えになっていく。

 かつて70年代のドラマなどでよく使われた「記憶喪失」という設定。記憶をなくした当時の主人公たちを救ったのは最後には愛だった。私の中のツッコミ心が「医学的には『日常生活には不自由がないのに、自分の過去の記憶だけがなくなってしまう』のはホントにレアケースって、聞いたことある〜」と叫ぶのだがそれは置いておこう。本作の中で「記憶喪失」という設定が浮かび上がらせるのは、詩織の深い孤独だった。派手でかわいくて恋人もいて、いつも一緒にいる友達もいた詩織。なのに、事故後に明らかになるのは、親友だったはずの友人は陰で悪い噂(うわさ)を流し、恋人の開はつきあい始めでまだよく知らない間柄だったという事実。信用できる他人は誰もいない。居場所のなくなった学校へ、それでも詩織は通っていく。

 詩織は「ずっと、いっぱいいっぱい」と心で叫びながらも、嫌われ者だったらしい以前の自分とは決別して生きていこうとする。勉強をがんばり、誠実に生きていこうとする、そのタフさがいとおしい。そして、詩織の昭夫への信頼はやがて「兄妹としてではない好き」に変化していくのだが、このへんも現代風といえば現代風か。最近の少年少女漫画は兄妹モノが多いよね、70年代ドラマにはなかったよな。

 物語では時折、事故前の「暴君な詩織」の場面も挟み込まれ、緊迫感がある。「記憶が戻るのが怖い」とおびえる詩織。いやはや、一生懸命空気を読みながら、相手に本心をみせずにつきあっている現代の若い子にとって、「記憶喪失」は、ラブロマンスよりも、サスペンスを導くのだ、と実感させられる。

プロフィール

写真

松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

検索フォーム

朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内 事業・サービス紹介