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地獄の恋 狂気と愛と緊張と(河井英槻)

2011年2月9日

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写真:王子と乞食 [作]河井英槻:王子と乞食 [作]河井英槻王子と乞食 [作]河井英槻

 うわあああ!! 出た! 本当に出てる! 書店で本書を見つけて、私は叫びだしたいほどの感動にかられた。絶対に無理だと思っていたのに! なにしろこのシリーズ第一作目の雑誌掲載は04年。その後不定期に掲載されていたが、掲載誌「BE Boy」を出していた出版社ビブロスが倒産。実に6年もの時を経て、ようやくこの12月に第一巻がでたのだ。ボーイズラブでしかもショタ(ショタコン=少年モノ)。「絶対ダメ!!」という人もおられるでしょうし、私も基本的にローティーンの性描写には反対なのですが、河井作品だけは私にとって例外なのです、紹介させてください。

 舞台は初の万国博覧会開催をひかえた19世紀イギリス。天才少年社長のカイは、仮面舞踏会で1人の人物と恋に落ち、1曲を踊っただけで引き裂かれた。その人物・ユキは、重機メーカー社長で伯爵であるバスカヴィルに囲われている愛人だったのだ。3年後、バスカヴィルは、カイの会社が万博に何を出品するのか探るべく、ユキをスパイとしてカイの会社に送り込む。再会した2人は別れを予感しながらも愛し合うようになる。

 孤児だった自分を拾ってくれたバスカヴィルを裏切れないユキは、カイを愛するがゆえに嘘(うそ)を積み重ねていく。その嘘を見通した上でユキを愛するカイ。一方、バスカヴィルは狂気をはらんだ愛情でユキを独占し、ユキはバスカヴィルとも離れがたく思っている。カイとバスカヴィルの会社は重機メーカーとして技術力を競うライバル会社でもあり、2社が機械部門に出品する万博が近づき、3人の関係はさらに緊張を高めていく。

 当時イギリスでは同性愛は死罪。バレれば死、そして愛する人は他人の愛人で、しかもパトロンはライバル会社の社長。二重三重の障害がカイとユキの前に立ちはだかる。この逆境の中で、まだ幼さの残るカイが必死に立ち向かっていく姿がいとおしい。ユキとバスカヴィルの関係がマスコミに露見しそうになったとき、「昔からあんたと俺は心中する巡り合わせだった」とあきらめるユキに対し、カイはその関係を否定する側に回る。「ユキに死なれてたまるか 死が何かを救うなんて俺は絶対認めない」と、万博審査での優位もバスカヴィルの失脚もフイにしてしまうのだ。なんて男らしいんだ!カイ!

 いや、もう、ショタだし、男の愛人だし、ローティーン(いや、ミドルティーン?)なのに社長だし、冷静にみればツッコミどころ満載なんだが、この恋の切なさと絵柄の美しさに、ツッコミ心を忘れてしまう。「別れても地獄 いっしょにいても身が切れる。そんな恋」。ぜひこんな切ない恋にひたってください。

 しかし、6年かけてようやく1巻。ああ〜続きが読みたくてもだえ死にそう〜。「次の巻まではさすがにそんなにかからない」と作者はあとがきに書いているが、本当にぜひそうしてください。

 ちなみに、東京都議会では都青少年健全育成条例改正案が12月15日に可決されて、強姦(ごうかん)など著しく社会規範に反する性行為を「不当に賛美・誇張する」として「不健全図書」と指定された漫画を、成人コーナーへ移すことなどを書店側に義務付けるそうだ。このあいまいな定義ってどういうこと? 本作って、カイは(年齢は明らかにされてないが)どうみても18歳未満だからアウトなわけ? エロがあってこそ高められるこの叙情性を感じ取ってくれ、東京都議会。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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