現在位置:
  1. asahi.com
  2. エンタメ
  3. 映画・音楽・芸能
  4. コラム
  5. 漫画偏愛主義
  6. 記事

たのしむずかし社宅妻 一丁目の心友たち(大久保ヒロミ)

2011年3月11日

印刷印刷用画面を開く

Check

このエントリーをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 このエントリをdel.icio.usに登録 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをBuzzurlに登録

表紙:一丁目の心友たち [作]大久保ヒロミ(講談社)一丁目の心友たち [作]大久保ヒロミ(講談社)〈「一丁目の心友たち」を検索〉

イラスト:(C)大久保ヒロミ/講談社拡大(C)大久保ヒロミ/講談社

イラスト:(C)大久保ヒロミ/講談社拡大(C)大久保ヒロミ/講談社

 「オトナだからこそ、トモダチが欲しいんです。」。帯のこの言葉にひかれて手に取った。そう、確かに大人のトモダチ作りは難しい。自分をさらけだすタイミングを見計らうのはいくつになっても難しいし、年を取れば取るほど他人と理解しあえない部分が増えて来るような気がするしね〜。本書は夫の転勤で関西から東京のセレブな社宅に引っ越してきた主婦・ゆみこを主人公に、同じ社宅に住む妻たちのトモダチ作りの難しさと楽しさを描いている。

 ゆみこは実はオタクで、心の友は「赤毛のアン」。できるなら日々すっぴんで暮らし、だらけた主婦トモダチが欲しいと思っている。しかし、引っ越した先は小綺麗(こぎれい)な主婦たちばかりが住んでいる社宅。しかも「旦那さんの地位の低い方がお掃除当番」との規約があり、ゆみこは日々廊下とゴミ捨て場の掃除に追い立てられる。

 隣に住む沢田は会社勤めをしながら社宅の自治会長も務めるキャリア女性。なぜかゆみこに構ってくる部長夫人・原は美人でお料理もできる完璧女性。二人ともゆみこと接点はなさそうだったが、沢田の部屋が驚くほどの散らかりようで、「片づけられない症候群です」と苦しむ姿をみて、ついゆみこは「お手伝いしますよ」。原はその完璧な女子力(じょしりょく=見かけのかわいらしさや料理上手など女らしさ全般の能力のこと)の一方で「実はバツ3」「女子に嫌われちゃうの」。嘘のないその言動にゆみことの距離が縮まっていく。

 もちろん三人の友情物語だけでなく、社宅の怖い点も描かれる。夫の社内地位が妻同士の友情にも影響し、ホームパーティーで招待される人も派閥で決まるし、派閥が違えば妻同士のランチにも招かれない。おお〜いかにも社宅にありそうだ〜と薄ら寒くなる。

 しかし、ゆみこはそういった派閥には無頓着だ。自分のことを「サラリーマンと結婚できただけで大ラッキーと思ってるんで」というあたり、現代の世相を表しててリアルだわ〜。確かに、今どき定職無しの男性も珍しくないしねえ。さらに言うなら、公務員と結婚できたら超絶ラッキーなのかしら。

 コミックスのあとがきを読んで、さらに私は感銘を深くした。作者が仕事と家事に追われて友達と会う時間も電話するタイミングも失っていて、「大人って友達いる? みんな孤独じゃないの?」という心の叫びを描きたいと思ったのがこの作品だそう。そうだよね、大人になると、仕事や育児やらで忙しくて、お茶する約束すら成り立たなかったりするよね〜。

 はてさて、大人のトモダチ作りは難しいが、長年生きていると、「妥協力」ともいうべき力がついてくる。若い頃は「相手のここが許せない!」と全力で相手に向き合っていたが、年を取れば「ま、仕方ないか」と思う力がわいてくる。「絶対無理!」と思っていたタイプの人間とも友人になれる可能性がでてくることもある。それに年を取れば取るほど月日はあっという間に過ぎるように感じるので、マメに連絡を取り合わなくても、たとえ1年1回の電話だけになろうとも、続く相手とは友情は続いていく。これを読んでいる若者よ、年を取るのもそう悪くはない。

プロフィール

写真

松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

検索フォーム

朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内 事業・サービス紹介