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速く正しく回転する青春 BUTTER!!!(ヤマシタトモコ)

2011年4月8日

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イラスト:BUTTER!!![作]ヤマシタトモコ(講談社)拡大BUTTER!!![作]ヤマシタトモコ(講談社)〈「BUTTER!!!」を検索〉

イラスト:(C)ヤマシタトモコ/講談社拡大(C)ヤマシタトモコ/講談社

イラスト:(C)ヤマシタトモコ/講談社拡大(C)ヤマシタトモコ/講談社

 東日本大震災から一カ月がたとうとしていますが、この日を境に、日常は変わってしまいましたね。地震や津波の被害を受けていない場所でも、必ず何かは変わっていて、もう一カ月前に戻ることは出来ません。いま私にできることを考えて、とりあえず節電しています。消費電力の3割を減らせば、その3割分を担っていた原発に頼らずにすむようになるだろうか、なんてことを考えながら。

 私事ですが、先日引っ越しました。最盛期には七つあった本棚を二つに減らしました。愛着のあった漫画たちの多くは古本屋へ。そしてどうしても手放せない、しかし世間的には評価が低くて将来は入手困難になるだろう漫画(含む同人誌)は、知人宅の屋根裏へ。その数、実に段ボール七つ分。知人よ申し訳ない。実家に送ると勝手に捨てられてしまうのですよ。そして重度の「片づけられない病」でもある私は、片づけ上手な友人にバイト代を払って引っ越し荷物を片づけてもらいました。たった2日で部屋はぴかぴか! これに味をしめて、すべての問題を金を払って解決しようとする私の病はどんどん深くなっていくようです。

    ◇

 さて、本題に入ろう。「HER」「ドントクライ、ガール」で「このマンガがすごい!2011年オンナ編」の1、2位を独占し、漫画好きならすでに知らぬ者のないだろうヤマシタトモコ。ボーイズラブ漫画「くいもの処明楽」で彼女が登場したときに「すごい新人がでてきたぞ!」と思ったのが、もう4年前なのか。リアリティーのある人物描写と、いきなり脇腹を突かれるような見事なギャグセンス、次々飛び出してくる多彩なテーマに、どの作品にも引き込まれてしまう。活躍の場をレディース誌や青年誌にうつし、多作になってもこの質を保っているとは本当に驚嘆する。

 本作は社交ダンス部を舞台にした青春ストーリー。ヒップホップにあこがれる元気女子・夏と、オタク系でネクラ男子の端場。正反対な二人がペアを組むことになったけれど、どうにもかみ合わない。嫌がらせで入部届を出され、いやいや入部する羽目になった端場は、練習で「超うける」などと言って、夏を怒らせる。端場を「みっともないね」とばっさり切った夏も、自分の中途半端さに「あたしってフツー」と落ち込んだりする。青春って、自意識過剰で過剰防衛でばさばさ人を傷つけて、あとで悔んだりして、いや本当に忙しいよね。本作はその慌ただしさと輝きを美しく切り取っていて、読んでいるだけでいたたまれないような、うれしいような気分になれる。青春まっただ中の人も、そうでない人も、楽しんで欲しい作品だ。

 ちなみに、タイトルは「ちびくろサンボ」でトラがぐるぐる木の周りを回ってバターになっちゃう、というくだりに由来するんだけど、一斉絶版騒動などがあって、かなり若い世代は元ネタを知らないのではあるまいか。初めてダンスでくるくる回らされて「バターになっちゃいますっ!!」と叫んだ夏に、冷静沈着な副部長の二宮が「もっと速く正しく回らないとバターにはなれない」とささやくのだ。バターになれるその日まで、がんばれ、夏! 端場!

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、名古屋本社報道センター記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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