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2011年5月6日
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漫画偏愛主義

初々しさがたまらないBL 鮫島くんと笹原くん(腰乃)

文:松尾慈子

表紙:鮫島くんと笹原くん[作]腰乃(東京漫画社)拡大鮫島くんと笹原くん[作]腰乃(東京漫画社)「鮫島くんと笹原くん」を楽天で検索

イラスト:(C)腰乃/東京漫画社拡大(C)腰乃/東京漫画社

イラスト:(C)腰乃/東京漫画社拡大(C)腰乃/東京漫画社

 まだ震災後の落ち着かない時期ではありますが、私の偏愛分野であるボーイズラブをご紹介したいと思います。本書ったら、私の心にジャストミート! 友人からも「まだ春だけど、この本が私にとって今年のナンバーワンよ!」とメールが来た。これを紹介せずして、なんのためのコラム書きであろうか。「こんな時期に不謹慎な」と言わないでくださいね、ね?

    ◇

 イイ男だけど実はヘタレな鮫島くんと、ちょっと短慮な笹原くんの、すったもんだのラブコメディー。常にマイナス思考の鮫島は「好きなんだけど、絶対拒否られる!」と思い詰めて逃走したり、笹原に詰め寄られると突然キレちゃって強引になったりと、心身ともに大忙し。恋する自分の心にあっぷあっぷになってしまう。「頭の中は恋愛一色!」なんてのは若い頃だけに許されることだから、そんな時期は遠い昔に過ぎ去った私にしてみれば、鮫島がとても愛らしく思えてしまう。

 「好きなんだけど…」
 「え?うっそ キモ」

 大学の同級生でバイト先も一緒という二人は、鮫島の告白で大きく関係が変わっていく。友人としての鮫島を失いたくない笹原は、何事もなかったように接していくが、本気の鮫島にはそれが許せない。分からないふりをする笹原に「めんどくさがってないでちゃんと考えろ」と迫る。とぼけたふりの笹島も「自分の事を好きな人間と一緒にいるのは楽だ」「そういう場所に入り浸って楽しんじゃってる段階で 脈なんてあるに決まってんだろ」と自分の心を探っていく。だんだん距離を詰めていく二人の初々しい様子がたまらない。

 せっかくいい雰囲気になったところで笹島を追い返し、いざという場面では「裸は見られたくない」と拒否する鮫島。経験のない事態続きで容量オーバーになった鮫島が、ぶっちゃけすぎなほどに内心を吐露してしまう長セリフは必読だ。どの言葉にも恋する気持ちが詰まっていて、読んでいるこっちまで切なくなってくる。鮫島の着ているシャツのイラストのサメが、鮫島の感情を代わりに表現して、時にシャーっと牙をむいたり、ぐるぐると無意味に泳ぎ回ったりするところも必見だ。

 腰乃作品はいつもエロ描写が激しくて、声高に誰彼なくオススメするのは私にもはばかられる。しかし、最後にエロに至ることなくしては、この恋愛の緊張感は描ききれないような気がするのだ。

 カバー裏に描かれている後日談漫画や、折り返しにある720字にも及ぶ鮫島のダメダメ思考など、作者のサービス精神が惜しみなく注がれたコミックスになっている。「私は大人よ」という女性の方々に読んで欲しい。さすがに、ここまでエロいと男性には勧めませんので。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、大阪編集局記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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