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2011年7月29日
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漫画偏愛主義

初々しく描かれた優しい物語たち スピカ(羽海野チカ)

文:松尾慈子

表紙:スピカ 〜羽海野チカ初期短編集〜[作]羽海野チカ(白泉社)拡大スピカ 〜羽海野チカ初期短編集〜[作]羽海野チカ(白泉社)「スピカ 〜羽海野チカ初期短編集〜」を楽天で検索

イラスト:(C)羽海野チカ/白泉社拡大(C)羽海野チカ/白泉社

イラスト:(C)羽海野チカ/白泉社拡大(C)羽海野チカ/白泉社

 7月22日の朝日新聞朝刊を見て思わず叫んだ。「島田八段!」。そう、羽海野チカが、マンガ大賞2011と講談社漫画賞をダブル受賞した将棋漫画「3月のライオン」の6巻発売にあわせて全面広告を出していたのだ(正しくは白泉社が出したのだが)。東京、名古屋、大阪、西部、北海道それぞれの本支社ごとに違うイラストで全面広告を出し、東京では主人公の桐山零が、大阪では零のよき先輩、島田八段が登場。同日夕刊1面下の広告でその全体イラストを掲載した。しかも、この企画は朝日新聞だけで。うれしい。社内の人に「これ、おもしろいの?」と聞かれるたびに、「おもしろいですよ!」と力説してまわった。羽海野さんに選んでもらえる新聞でよかった(というか白泉社が、なんだが)。これからも羽海野さんに選んでもらえる新聞であるよう、私は私に与えられた仕事をきちんとしよう、と改めて思った。ちなみに、私の本業はコラム書きではなく編集者であって、日々地味に仕事をしている。

    ◇

 その羽海野が、表題作の初期短編集を出した。2000年から04年にかけて描いた6作品を集めている。「拙いですがあの頃の私の精一杯がつまってます」。帯の言葉通り、初々しい羽海野の魅力が詰まっている。

 内容は様々だ。高校球児とバレリーナを目指す少女の交流を描く「スピカ」、少年キオが活躍する連作2編、ちょっとボーイズラブの雰囲気の「夕陽キャンディー」などなど。

 当時も今と変わらぬかわいらしい絵柄で、優しい人物たちを描く。キオの登場する話は、私は雑誌の切り抜きを今でも大事にとっていた。廃刊の憂き目にあった雑誌に載った作品なので、まさかコミックスで読める日が来るとは思わなかった。前作「ハチミツとクローバー」と「3月のライオン」で大ブレイクしたおかげだろう。

 ただ私は、大ブレイクのおかげで羽海野の周囲に大変化が起きたために、ナイーブそうな彼女がその変化に押しつぶされてしまわないか、心配でたまらなかった。会ったこともない彼女だが、その作品やあとがき、インタビューなどから誠実な人柄がうかがえる。この本の印税も全額、東日本大震災の義援金にするという。そういう心根のきれいな羽海野だから、私はずっと心配していた。

 「3月のライオン」6巻でも、作品のレベルは下がることなく、身を削りながら創作にあたっているのがよく分かる。私の愛する漫画家はたくさんいるものの、なぜか、羽海野には特別強く「どうか、どうか体だけはお大事に」と祈ってしまう。「スピカ」は、羽海野のそんな清らかさがよくでた作品集だ。読んで心洗われる思いがする。羽海野初心者にもぜひおすすめしたい作品だ。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、大阪編集局記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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