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2011年10月7日
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漫画偏愛主義

秘められたエロスに身もだえ 25時のバカンス(市川春子)

文:松尾慈子

写真:25時のバカンス[作]市川春子(講談社)拡大25時のバカンス[作]市川春子(講談社)〈『25時のバカンス』を商品検索〉

写真:(C)市川春子/講談社拡大(C)市川春子/講談社

写真:(C)市川春子/講談社拡大(C)市川春子/講談社

 市川は寡作だ。デビューコミック「虫と歌」で昨年の手塚治虫文化賞新生章を受賞したときは出版社に勤務しながら描き続けていた。今もそうなのだろうか。ようやく2冊目のコミックスがでた。今回も、独特の世界観と、秘められたエロスが堪能できる。

 3つの短編が収録されており、表題作の「25時のバカンス」で姉と弟がおりなす話は、深海生物が登場し、人間模様もからみ、かつ恋愛漫画であって、深い。

 深海生物の研究者・西乙女は、12歳下の弟・甲太郎の20歳の誕生日に再会しバカンスを過ごす。乙女は甲太郎に、深海生物の貝に内部を侵食され「貝殻女」になった自分の姿をさらす。

 乙女の内部に住む深海生物3匹は知的生物で、乙女と甲太郎の会話にわりこみ、間を取り持ち、乙女の隠していた心を知らせる。そこで読者は、日頃はファッションに構わないらしい乙女がドレスを着ている理由、甲太郎に手を引かれてほほを赤らめる乙女の気持ちを知るのだ。

 直接的な表現はなくとも、この作品にはエロスがつまっている。弟がバカンスを邪魔する同僚たちに言う「僕本当は弟じゃないんで 二人でゆっくり休ませてもらえませんか?」 うわ〜、何、このエロス。別にその後で二人の仲は進展するわけではないのだが、この先を予感させて読む方も身もだえてしまう。しかし、この程度でもだえてしまうのは、私が日頃ヘテロ性愛漫画に慣れていないから? 具体的な性描写がある作品より、市川作品はよっぽどエロを感じる。

 乙女が貝に自分の体を侵食させたのは、弟と他人になりたくてだろうか、自分のせいで傷ついた弟の目を再生させたくてだろうか。変人天才科学者でありながら、この乙女の一途さ。ラストでもこの二人の関係は先を見通せないのだが、それでも消化不良感はない。

 しかし、前作に続いて市川は家族という設定が好きなようだ。一番周囲に怪しまれずに一緒にいられるからかしら。同時収録の「月の葬式」でも天才高校生と月の王子は「兄弟」の設定だし。「人ならざる者」が登場する点とあわせて、市川の永遠のテーマなのかもしれない。

 話がわかりやすくなった分、私は前作よりこちらの方が好きだ。寡作に耐え、次回作を待ちたい。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、大阪編集局記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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