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2011年10月21日
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漫画偏愛主義

随所の宗教論議がおもしろい 純潔のマリア(石川雅之)

文:松尾慈子

写真:純潔のマリア[作]石川雅之(講談社)拡大純潔のマリア[作]石川雅之(講談社)〈『純潔のマリア』を商品検索〉

写真:(C)石川雅之/講談社拡大(C)石川雅之/講談社

写真:(C)石川雅之/講談社拡大(C)石川雅之/講談社

 1年半待って、ようやく2巻が出た本作。農大を舞台にした人気作「もやしもん」も連載している作者だから、そりゃ忙しいのだろうけれど、いや〜、待ちましたね。そして本作、1巻からおもしろさが全然力を失っていない。というか、物語が核心に迫ってきているようで、さらにおもしろさがアップしている。

 時は英仏の百年戦争のころ。戦争嫌いの魔女マリアは、アルテミスとプリアポスという夢魔(もとはフクロウ)、そして魔法で呼び出した巨大な怪物を使って、戦争を止めようとする。最強の魔女でありながら実は処女であるマリアの行いは、天の怒りを買い、「人前で魔力を使わぬこと、そして処女を失えば魔力を失う」という制約を受けることになる。

 随所にでてくる宗教論議がおもしろい。マリアを慕う脱走兵・ジョセフは、天からの使い・エゼキエルと対面する。「天上の教会に救いを求めてはいけないのは残念ではあるものの理解につとめます」とけなげに言ったあと「私にはマリア殿の心と行いが天から罰を受ける程悪しきものとは思えないのです」。答えに窮したエゼキエルは、後に大天使ミカエルに問う。「人を幸せにしたいと思う事は驕りでしょうか?」。「人には出来る範囲があるのだよ」とミカエルははぐらかす。そうした議論も決して重たくなく、さらりと読み進めることができるのは、さすが石川の力量か。

 兵士たちをベッドに誘うのが夢魔の仕事なだけに、女夢魔アルテミスの衣装が過激だったり、性に興味津々のお年頃のマリアが悶々(もんもん)としてしまったりと、決して子ども向きでないせりふが飛び交うのだが、文句なしにおもしろい。色っぽいのはせりふだけで、過激な性描写は一切ないので、まあ、お子様にもどうぞ。

 細部まで書き込まれた画面にも舌を巻く。これを作者は一人で描いているのだそうだ。この戦場や戦士の一人一人の表情、革のテカリや艶に至るまで、その丁寧さに本当に驚く。作画にアシスタントを入れればもっと量産できるだろうに、とファンとしては思うが、それを望むとこの持ち味も変わってしまうのかもしれないな、とガマンする。

 農大漫画とともに、続きが気になる漫画である。また1年半待たされるのだろうが、じっとガマンだ。

 まったくの余談ですが、私が通勤途中に行きやすい某書店、そこはなぜか漫画コーナーに新刊台がないのです。半年前からずっと平台には、同じ漫画が。なぜなんでしょう。新刊を探しきれずに「今日発売のxxはどこですか?」っていちいち聞かないといけないのが辛いんですが。特に、口に出せないようなタイトルの本の場合には聞けないじゃないの! と思うのです。「そういう本は買うな!」という声が聞こえてきそうですが、結構切実です。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、大阪編集局記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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