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2011年11月4日
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漫画偏愛主義

愛情全開の掛け合いがたまらない 付箋の気持(歩田川和果)

文:松尾慈子

イラスト:付箋の気持[作]歩田川和果(廣済堂出版)拡大付箋の気持[作]歩田川和果(廣済堂出版)〈『付箋の気持』を商品検索〉

イラスト:(C)歩田川和果/廣済堂出版拡大(C)歩田川和果/廣済堂出版

イラスト:(C)歩田川和果/廣済堂出版拡大(C)歩田川和果/廣済堂出版

 本当は、歩田川の新刊「ふじむすめ」(廣済堂出版)を紹介するつもりだった。先日、ジュンク堂の新刊台で「ふじむすめ」を見つけ、初めて見る作家名ながらも「これはアタリだ」という確信に似た予感があり、帰宅するのを待てず、電車で読了。すっかりファンになり、翌日には歩田川の既刊を探しに再びジュンク堂を訪れたほどなのだ。そして既刊「付箋の気持」、「エディドヤ」を読んで、「アタリ!」は確信となった。そして、私の好き度と一般受けを考え、「付箋の気持」を紹介させていただきたい。今回もやっぱりボーイズラブです。

 大学生の栄太は、同級生の佳久に思いを寄せている。佳久のバイト先に出没し、佳久の授業の空き時間を狙って図書館で待ち伏せる。それでも、佳久にその気持ちは伝わらない。やがて栄太は玉砕覚悟で告白に挑む。

 基本は会話劇だ。掛け合いの妙が二人の相性の良さを感じさせる。前半の片思いに悩む栄太の独白もいいが、告白後の、愛情全開にした栄太と、それにひるむ佳久の掛け合いがたまらない。図書館に行こうとする佳久に、ついて行こうとする栄太。「用事あるのか?」「目の前にあるじゃん」。

 わあ、こういうふうに、愛情をめいっぱい相手に示せたら、それはそれだけでも楽しいよねえ。ときめかない、という佳久に「小さなことでも幸せになれるよ 俺ここに座ってるだけで楽しいぜ どきどきするし」。こんなに、恋する気持ちを言葉に出すって、人生でどれだけあるかしら。栄太の繰り返される愛の言葉は、読む者の心も暖かくしてくれる。「最低男」と佳久が書いた付箋を大事にとっておく栄太なんて、なんてかわいらしいんだろう。

 佳久の素っ気ない態度に傷ついていた栄太に、誠実に答えようとする佳久の言葉もなかなかだ。「ごめん いつもふったつもりはなかった」。そして、「今もないから」。言葉足らずな佳久を、栄太が埋めるように話していく。

 大きな事件が起きるわけでもない、ただ恋する二人の日常を描いているだけなのだが、心に残る。長唄教室を舞台にした「ふじむすめ」もなかなかだが、三味線がテーマの「ましろのおと」(羅川真里茂)をつい連想してしまうので、次点ということで。

 ところで、私に思わぬ話が舞い込んだ。東大の学生さんから「学祭の駒場祭で、ボーイズラブについて熱く語ってくれませんか」という依頼が来たのだ。天下の東大生様を前に、ホモ漫画の萌えを語れって、いったい何の羞恥プレイなんですか? という気がしたが、すでにいろいろな識者に出演を依頼して断られたのだという(そりゃ当然だろうと思う)。11月25日(金曜)午後4時半から6時、東大駒場キャンパス1101教室で、「BL tea Time in 駒場〜私たちの萌えって〜」と題して、江路みそ先生と一緒にお話します。ボーイズラブについて興味のある方、寛容な心で受け止めてくださる方、どうぞいらしてみてください。小心者なので「行ってみて、オタク弾劾裁判だったらどうしよう」とおびえている私です。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、大阪編集局記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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