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2011年12月16日
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漫画偏愛主義

母への深い愛情、全編に おかん(柏木きなこ)

文:松尾慈子

イラスト:おかん[作]柏木きなこ(集英社マーガレットコミックス)拡大おかん[作]柏木きなこ(集英社マーガレットコミックス)〈『おかん』を商品検索〉

イラスト:(c)柏木きなこ/集英社マーガレットコミックス拡大(c)柏木きなこ/集英社マーガレットコミックス

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 この本は、ある日突然、母が同級生になってしまった「女子高生かあさん」と、作者の母を題材にしたほぼ実話4コマ漫画「うちの母いかがですか?」、さらには読者からの衝撃母実話も漫画化した、とにかく、母一色の漫画である。

 おかん。これほど濃い人物を想像させる言葉があるだろうか。裏表紙では、大仏パーマをかけたおかんが、「これで420円はお買い得よ」と、おばちゃんだけがやる手のひらを上下に振る例の仕草をしている。いやまあ、これで420円は確かにお得だね、おかん。

 表題作の方は、なぜか突然女子高生になってしまった母と、現役女子高生の主人公とのフィクション漫画なのだが、それよりも断然おもしろいのは、ノンフィクション部分の方だ。すでにブログ「きなこ激安中」で800万ヒットを誇り、「うちの母、はじめました」(新風社)と書籍になっているが、それほどのナイスな天然ボケ母なのである。柏木母、やるなあ。

 旅行用のスーツケースの底には、忘れないように暗証番号を書いておく。娘のお気に入りのブーツに灯油ポンプを立てる。携帯電話を持って出たつもりが、実はそれ、テレビのリモコン。これすべて、意図なし悪意なし。その天然ボケぶりは、「ネタなの!?」とツッコミたくなる強烈さだ。

 この母は、娘がブログにしているのを知っているのだろうか。ブログを読むとコミックス発売の際に「まさかそれ変なこと描いてるんじゃないでしょうね!?」「うわ〜ん読みたくない〜」と嘆きつつも、こっそり隠れて読んでいるという。さすが、この母だけはある。

 全編を読んで感服するのは、柏木がこの母を愛情を持ってネタにしている点である。ブーツに灯油をつけられ、DVDの再生を頼めばCDラジカセにつっこんでいる母。私なら、マジ怒りしているだろうに、柏木は「この母なら仕方ないか」と常に達観しているのである。深い家族愛を感じる。

 しかし、冷静になってみて衝撃の事実に驚いた。この作者はたぶんお若いだろうから、私の年齢は、たぶん、作者よりこの母の方に近いんだよね・・・。いや、私はDVDとCDの違いは分かるし、再生の一時停止の方法も知っているよ! でも、確かに奮発した高価なジュースを飲ませるときにはおちょこで出しちゃうかもね。

 そしてさらに複雑な気持ちにさせられるのは、これ、「ザ・マーガレット」で連載されているんだよね。ターゲット層であろう、女子高生は、こういうコメディエンヌとしての母を期待しているの? いや、母親への愛情は深いのよね。なんだか、母と同年代だけに、複雑だ。高校生の母なんて、そんなに年寄りじゃないんだからね! とだけ言っておこう。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、大阪編集局記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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