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2012年2月10日
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漫画偏愛主義

完成度の高い男女のファンタジー 雨降り姫と砂漠王子(清原なつの)

文:松尾慈子

画像:雨降り姫と砂漠王子[作]清原なつの(小学館)拡大雨降り姫と砂漠王子[作]清原なつの(小学館)〈清原なつの『雨降り姫と砂漠王子』を検索〉

画像:(c)清原なつの/小学館拡大(c)清原なつの/小学館

画像:(c)清原なつの/小学館拡大(c)清原なつの/小学館

 おおお〜。清原さん、久々の新刊だ。おとぎ話を土台としながらも、スパイスの利いた男女の物語にしたてあげた「お伽(とぎ)ファンタジーシリーズ」の2巻目となる。八つの短編と書き下ろし漫画が収録されている。

 私の目を引いたのは、巻頭に収録されている「バブル姫とロスジェネ王子」だ。いや〜バブル経済真っ盛りに東京の大学生だった私には、主人公のバブル女・宇田方みなわの思考回路が、共感はしないが大いに理解できる。ひとまわりほど年下だと思われる堅実な男・比和又昇との見解の相違ははなはだしい。

 なぜか一緒に旅をしているこの二人。不景気な日本しか知らないロストジェネレーション世代の昇は、宿を決めるにも「地道に働いて得たお金、将来のためにも節約しなきゃ」と話す。これに対してバブルを経験した女は「明日は明日の金が来る」。「男はおごって当然」という態度のみなわに、昇は「嫌です」ときっぱり断る。むくれるみなわに、昇はこう説教するのだ。「明日は今日よりよくなるなんて幻想ですよ」。ちなみに、みなわは当時大流行していたロングヘアーのソバージュだ。

 うお〜。この、バブル女の感覚、同世代の人にはご理解いただけるだろうか。約20年前のあの頃、男の子はアルバイトに精を出し、意中の女の子にアクセサリーやブランドバッグを贈ったものだ。つきあっているワケでもないのに、女の子に食事をおごり、車で送り、と奉仕する役をした男性を「めっしー」「あっしー」とも呼んだっけ。今思えば、おかしな時代だったのね……。結局、この二人、現実世界ではみなわ35歳、昇25歳として再会し、結ばれるのだが、その出会い方もまた現代風で、読む側はううむ、とうならされる。

 表題作の「雨降り姫……」はアニミズム(土着信仰)ともいえる雨を降らせる姫が、ウオータービジネス会社の男性と恋に落ちる話だし、「文通姫と眠り王子」は、宇宙旅行開発の暗部を描いた恐るべき作品である。「浮き島姫とムーンベース王子」は震災後に描かれた作品なのだろう、読者の方にはぜひ深読みして欲しい。

 どの短編も物語の完成度が高くて、さすが清原! と、うなるばかりだ。巻末の書き下ろし漫画で、主人公の姫たちが「その後幸せな日々が永遠に続きましたというお話になぜならないんですか」と問うシーンがある。基本的に、ひとりで運命と闘うのが清原作品の主人公の女の子たちの宿命である。寡作な清原ではあるが、清原には清原にしか表現できない女性性の切なさや、人生の残酷さがある。その「毒」ともいえる持ち味に魅せられた読者は、気長に次回作を待つしかない。帯にあるとおり、少女漫画界では、まさしく「異才」の漫画家なのだ。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、大阪編集局記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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