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2012年2月24日
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漫画偏愛主義

美女への愛情の深さに頭が下がる 森薫拾遺集(森薫)

文:松尾慈子

画像:森薫拾遺集[作]森薫(エンターブレイン)拡大森薫拾遺集[作]森薫(エンターブレイン)〈森薫『森薫拾遺集』を検索〉

写真:(c)森薫/エンターブレイン拡大(c)森薫/エンターブレイン

写真:(c)森薫/エンターブレイン拡大(c)森薫/エンターブレイン

 英国のメード物語「エマ」や、中央アジアの花嫁たちを主人公にした「乙嫁語り」などで人気を集めた森薫。デビュー10年を迎えた彼女が描いた短編やイラスト、漫画エッセーなどをまとめた作品集だ。バニーちゃんやメードなど、美しい女性を活写する森の魅力が存分に味わえる。

 いや、もう、どこを開いても「森」である。ややふっくらした、セクシーな女性が盛りだくさん。作者は女性であるが、彼女が描く女性はもうセクシーであり、かつ、なんというか、男性に対する媚(こ)びを感じさせないのである。

 「巣穴・紳士倶楽部(バロウ・ジェントルマンズ・クラブ)」がそのいい例であろう。バニーガールの主人公は、こっそりお尻にタッチしてくる紳士の手をつまみあげる。そして、ダイヤの指輪を手渡して結婚を迫る紳士には、ふと灰皿を手にとって「これもダイヤモンドにしてみて下さるかしら?」「ガラスをダイヤモンドに変える事ができるなら ウサギが奥様に変わる事もございましょう」とかわしてしまうのだ。なかなか落とせないところがまた魅力的な女性像だ。

 ただ女性が水着を着るだけ、という8ページの「昔買った水着」にしても、確かに水着にはなるのだが、その視線の先には彼女の夫、愛する男性がいるのである。森の描く多くの女性は、美しく、多くの男性をとりこにしながらも、決してやすやすとは男性にくみしない、貞淑な居住まいをしている。

 ともかく、もう森の資料集めの根気強さと、美しい女性への愛情の深さには頭が下がる。「ヴィクトリア朝のコルセット」という6ページ作品には、これでもか!というほどの知識と愛情が詰め込まれている。単にマニアともいうのか。アガサ・クリスティーについて描いた5ページ作品にも、19世紀末のイギリスの生活感に触れられて幸せな表情をしている森の姿を見ることが出来る。どんだけ愛が深いのだ。

 そして、売れっ子になってもなお、気合が入った作品には自分でトーンを貼ってしまうというこの性格。「本の名前に自分の名前が入っているって微妙な感じ」と本人は書いているが、漫画を愛する読者になら、ついてこれますとも! 「週刊石川雅之」もあるくらいだし、全然大丈夫! というわけで、この熱さについてこられる読者だけ、お手にとってみてください。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、大阪編集局記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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