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2012年3月23日
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漫画偏愛主義

謎解きに引き込まれ、ラストに感嘆 わるいこと(善内美景)

文:松尾慈子

写真:わるいこと[作]善内美景(メディアファクトリー)拡大わるいこと[作]善内美景(メディアファクトリー)〈善内美景『わるいこと』を検索〉

写真:(c)善内美景/メディアファクトリー拡大(c)善内美景/メディアファクトリー

写真:(c)善内美景/メディアファクトリー拡大(c)善内美景/メディアファクトリー

 最初におことわりを申し上げます。私、普段は全然ミステリーを読みません。だから、この作品がミステリーとして優れているかどうか、さっぱり分かりません。ただ、読んで「ほ〜」と感心したので、ご紹介させていただきたく思います。ミステリー好きの方々には「こんな手法、使い古されてるよ」と思われるかもしれませんが、お許しください。

 電子書籍販売サイト「パピレス」で累計5万部、という帯のうたい文句に惹(ひ)かれて手に取った。う〜ん、アニメ絵っぽい・・・全員若者に見える・・・と難渋しながら読み進めると、意外や意外。展開にぐいぐい引き込まれていった。そしてバタバタと仕掛けが明かされていくラスト。普段ミステリーを読みつけない私としては、ただただ感嘆であった。もちろん、好き嫌いが分かれる作品ではあろうが、私は嫌いじゃないよ、うん。

 時は昭和30年代はじめ、戦後の混乱期の日本。美しい青年が、血まみれで交番に現れる。「人を殺したらさ ここに来なくちゃいけないんだろ?」。不遜な青年に相対したのは、変わり者と評判の刑事・新藤。自首して来たのに、名前も住所も黙秘を続ける理由は「あんたたちを馬鹿にしてる」からだ、という青年。

 殺人事件が起きたのは分かるのに、被害者がいない。誰が殺されたのか? そして青年の正体は? 謎が少しずつ解明されていくが、トリックには破綻(はたん)がなく、感心させられる。最初の殺人が明かされたあと、さらに衝撃の告白が青年から続く。

 刑事の新藤に人間味があり、凄惨(せいさん)な場面が続く中でほっとさせられる。青年がようやく自分の名前を明かそうとしたときに、それを遮って新藤は先に自分の名を名乗る。そうだね、名前を聞くときには、先に自分の名前を言うよね。そういう「人間扱い」を青年に対してする、という新藤の姿勢が見える。青年が「お前らは本当に必要な時には来やしない」と毒づくと、「俺に言えばすぐ助けに行ったのに」。閉じられた取調室でのやりとりで、その言葉が本心からであることを青年に信じさせていく、新藤の言葉には重みがある。

 当初、なぜ時代設定が戦後なのかと疑問だったが、最後まで読めば、なるほど戦後の混乱期でなければならない理由があったわけだ、と腑(ふ)に落ちる。各人の心理描写に物足りなさはあるが、すべての符号が解明できたときの読後感は悪くない。

 本作は、著者の初コミックスのようで、アイデア勝ち、という面が大きいだろう。ぜひ次回作で実力のほどを見せて欲しい。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、大阪編集局記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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