現在位置:
  1. 朝日新聞デジタル
  2. エンタメ
  3. 映画・音楽・芸能
  4. コラム
  5. 漫画偏愛主義
  6. 記事
2012年4月6日
このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

漫画偏愛主義

脇役の生き様も丹念に 超嗅覚探偵NEZ(那州雪絵)

文:松尾慈子

写真:超嗅覚探偵NEZ[作]那州雪絵(白泉社)拡大超嗅覚探偵NEZ[作]那州雪絵(白泉社)〈那州雪絵『超嗅覚探偵NEZ』を検索〉

写真:(c)那州雪絵/白泉社拡大(c)那州雪絵/白泉社

写真:(c)那州雪絵/白泉社拡大(c)那州雪絵/白泉社

 超人的な嗅覚を持つペット探偵の松下操が、元同級生の刑事・神保とともに難事件を解決する本作。設定をみた瞬間、「デカワンコ」(森本梢子)を連想し、私は未読だったので「デカワンコ」を買って確認したが、ほっ、全然違う物語だ。いや、すみません、那州さん、疑って。

 というわけで、本題。犬並みの優れた嗅覚を持つ松下は、その能力を生かして迷子のペット・失せ物を探す探偵をしている。ところがその挙動のあやしさゆえ警察官からの職務質問が32回。ゆえに警察を忌み嫌っている。一方、元同級生の神保は警察官として事件の現場で松下に再会、その能力を思い出し、捜査協力を依頼する。なんだかんだで嫌々協力する松下の力で見事、事件は解決。松下の能力に目をつけた神保の上司・芳谷が、今後の事件解決の切り札として期待する。

 松下のその能力やすごい。芳谷の右尻ポケットにあるライターを言い当て、隠された死体の臭いをかぎつけ、果てはその体臭で相手の感情まで読み取る。まさしく超能力である。だが、その性格のキツさゆえに仕事は少ない。

 注目すべきは松下の長ぜりふ。「透視能力とかはるか遠くの音を聞き分ける力とかを知ると それを超能力と呼び 憧れ 時に恐れる なのになぜ!! 人の何百倍も優れた嗅覚は犬並みと譬(たと)えられ一段下がるんだ!?」。こういうせりふに力があるのが、那州作品のいいところだよなあ。続く「なんでデビルイヤーとデビルアイがあってデビルノーズがない!? 003の鼻がよくないのはどういうわけだ!?」。お若い読者にはピンとこないかもしれないが、「デビルマン」(永井豪)において主人公・デビルマンにはデビルイヤーとデビルアイという視覚聴覚の超能力があり、石ノ森章太郎の「サイボーグ009」にでてくる003・フランソワーズは視覚聴覚が優れているのに、嗅覚については普通なのだ。さすが、細かいところにまで目を配っているぜ、那州さん。

 脇役にもきちんと人格を与え、それが冴えるのも、那州ならでは。芳谷は、名家の生まれで大金持ちの友人についてこう神保に言う。「あいつをどれだけ利用しないで生きられるかで己の人間性が試されると思って戒めにしてんだ俺は」。松下の危機にはその友人の財力を利用しながらも「本気で(ヤツを)利用してたら俺今頃こんなとこにいねぇよ」と巡査部長の身に甘んじている。ただの上司でなく、芳谷の生き様がそこに見えてくる。

 これが、大人向け少女漫画誌「メロディ」でなくて、「別冊花とゆめ」掲載なのが不思議なところだ。ちなみに、タイトルの「NEZ」とはフランス語で鼻、もしくは調香師という意味だ。

 この著者の「ここはグリーンウッド」に青春を捧げた私としては、こうして「男の子がわさわさ活動しているカンジ」の作品はうれしい限りだ。ちなみに2話にでてくる蛇好きの彼は、グリーンウッドに登場した彼ではないのだろうか。2008年の1作目から、単行本にまとまるまで、年1作という超スローペースで発表していたという。できれば続編を期待したい。

プロフィール

写真

松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、大阪編集局記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

検索フォーム

朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内 事業・サービス紹介