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2012年4月20日
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漫画偏愛主義

人気漫画家夫婦に娘が生まれたら おかあさんの扉(伊藤理佐)

文:松尾慈子

写真:おかあさんの扉[作]伊藤理佐(オレンジページ)拡大おかあさんの扉[作]伊藤理佐(オレンジページ)〈伊藤理佐『おかあさんの扉』を検索〉

イラスト:(c)伊藤理佐/オレンジページ拡大(c)伊藤理佐/オレンジページ

イラスト:(c)伊藤理佐/オレンジページ拡大(c)伊藤理佐/オレンジページ

 私の愛するギャグ漫画家、伊藤理佐が2010年1月に出産した。産前、いろいろ仕事をお休みするにあたって、「10年春には復帰予定です」とあったが、私は「無理はしないでいいのよ」と思っていた。そして現在、伊藤理佐の仕事量は「4割減」、オットの人で漫画家の吉田戦車は「1割減」だという。まあ、そうであろう……。そして久々の新刊が、娘との日々をつづった本作だ。

 エロギャグからエッセーまで、手広く活躍していた伊藤。そして、吉田戦車とバツイチ同士の結婚をして「独身が売りだったのに、結婚しちゃったら仕事が減る〜」と心配していた伊藤。そして、とうとうお母さんになり、それをネタにする日が来ようとは。同い年の私としては感慨深い。

 娘ちゃんとの日々は、たわいないと言ってしまえばたわいない。毎日、少しずつ成長し、驚かされていく日々をつづっている。ある時は初めて娘が大笑いする声に驚き、「バイバイ」の言葉に反応して手を振る娘に「これを初めてのバイバイと認定していいのか」と夫婦会議をする。「育児とは、驚きと慣れの連続」と言っていたのは俵万智だったか。

 しかし、中でも私が強く共感したのが、萩尾望都先生のエピソードだ。あるホームパーティーで、子連れの伊藤が萩尾先生と会う。それだけでも事件なのだが、萩尾先生、ずっと娘をだっこしてくださって、しかも、娘にタラモを食べさせてくださっている……。しかし娘はまだ1歳前。離乳食もまだで、おっぱいしか飲んだことのない娘が、生クリームたっぷりタラコたっぷりのジャガイモを! 「あ〜!!」と叫んだ後、伊藤は首をかしげる萩尾先生に「いえ!何でもないです どうぞ!」と叫ぶ。吉田に叱られるも「だってだって萩尾望都なんだよ!? 神なんだよ!?」。これには吉田戦車も「………だな!!」。少女漫画で育った人間になら分かるだろう。この「だな!」。漫画の父が手塚治虫ならば、萩尾先生といえば、少女漫画の母だから!! 吉田も同意したのがまた私にはうれしい。

 現在は、週3日前後、ベビーシッターに来てもらい、それ以外は交互に子守をして仕事をしているという。「保育園にあずけて二人でばりばり働く、というのはもうあきらめた」と吉田戦車の書くコラム「おとうさんの扉」にある。そうか、あきらめたのか。いえ、いいんです。作者が幸せな生活を送ることが、結局はいい作品を生み出すことにつながる(ことが多い)のだから。

 作風がどんどん変わっていくのも、それはそれで楽しみだ。4割減でも構わない。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、大阪編集局記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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