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2012年5月4日
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漫画偏愛主義

劣等感の描写がリアルで痛い 泣けるBL(リブレ出版)

文:松尾慈子

写真:泣けるBL(c)Libre Publishing 2012 Illustrated by Tomoko Yamashita拡大泣けるBL(c)Libre Publishing 2012 Illustrated by Tomoko Yamashita〈『泣けるBL』を楽天で検索〉

写真:原作:榎田尤利 作画:峰島なわこ『海とヘビースモーカー』(c)Libre Publishing 2012拡大原作:榎田尤利 作画:峰島なわこ『海とヘビースモーカー』(c)Libre Publishing 2012

写真:著:木原音瀬 挿絵:糸井のぞ『期限切れの初恋』(c)Libre Publishing 2012拡大著:木原音瀬 挿絵:糸井のぞ『期限切れの初恋』(c)Libre Publishing 2012

 帯の文句は「オールハッピーエンド読み切り」。執筆者は榎田尤利(原作)、木原音瀬、ヤマシタトモコ、などなど。豪華である。しかし、ボーイズラブで、しかもハッピーエンドを約束された、「泣ける」。なんというか・・萎える。最初からオチが見えている。副題が「泣きたい時に読む 幸せ恋愛作品集」。そうか、みんなそんなに泣きたいのか。複雑な気持ちになりながら、執筆陣にひかれて手に取った。

 一読して、うん、悪くない。とりあえず、アマゾンで酷評されているほどには悪くないよ! とにかく、木原作品が秀逸。やはり、ダメ人間を書かせたら右に出る者がいない。木原作品には必ずといっていいほどダメ人間が登場するのだが、そのダメっぷりたるや、すごい。今回の短編「期限切れの初恋」。主人公は平凡な会社員なのだが、その恋の相手はパチンコ依存症になった元同級生のホームレス! 大学時代はきらきら輝いてたような初恋の相手も、今では悪臭を放つろくでなし。その描写がまた克明で、「木原さん恐るべし」なのだ。

 主人公は初恋の相手をけなげに思い続ける。自宅に彼を住まわせて、「悪臭を放つホームレスである限り、ほかの人は彼を顧みない。僕のそばに居続けてくれる」という執着にも似た愛情で彼に接し続ける。そして、その彼が自分よりもほかの友人たちを大事に思っていたことを知り、「誰を大切に思う、誰を好きになる。それは(ホームレスの)村上の自由だ。リストの上に名前がなかったからといって、傷つくのは自分の勝手だ」と心でつぶやく。このあたりの劣等感の描写がリアルで胸に痛い。そう、泣ける、というか、そうね、泣けるのよ。

 しかし、泣けることをこんなに求めていていいのだろうか。本当はもっと深く考えることも必要なのではないだろうか?と、ちらと思う。巻末、編集者のコメントで「感情を抑えることが多い社会ですので(中略)、我慢せずに思いっきり解放してほしいです」。そうねえ、そうねえ。諸手をあげてオススメ、とはいかないが、ちょっと泣きたいときにはいいかもしれない。

 余談だが、最近、私の最愛の漫画家の一人、依田沙江美作品の復刻版が続々刊行されている。最近でた復刻版「ぴかぴかBrand―new―day」(祥伝社)には、5ページだが書き下ろしがある!  雑誌で読み逃していた作品も収録されていて、うれしいはうれしい。だが、「新装版」と書いてないので、書店員さんに「内容がすでに持っている本と同じものでないか確認したい」と言ったところ、「これ、数日前にでたばかりの本ですよ」と言われてしまった。「もう10年近く前の作品の復刻版なので、私、持っているんです」と食い下がって、ようやくシュリンクをはずしてもらったのだ。新装版って書いててくれたら、私、こんな不審者にならずにすんだのに! そして館野とお子「約束の日」(祥伝社)も、新装版と気づかずに買っちゃったよ。書いてくださいよ、「復刻版」って。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、大阪編集局記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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