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2012年5月18日
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漫画偏愛主義

お寺が舞台の悶々ライフ お慕い申し上げます(朔ユキ蔵)

文:松尾慈子

写真:お慕い申し上げます[作]朔ユキ蔵(集英社)拡大お慕い申し上げます[作]朔ユキ蔵(集英社)〈朔ユキ蔵『お慕い申し上げます』を検索〉

イラスト:(c)朔ユキ蔵/集英社拡大(c)朔ユキ蔵/集英社

イラスト:(c)朔ユキ蔵/集英社拡大(c)朔ユキ蔵/集英社

 キリストとブッダの東京でのバカンス生活を描いた「聖☆おにいさん」(中村光)のヒットからか、最近は仏教モノ漫画が多いように思う。「5時から9時まで」(相原実貴)も主人公のお相手は坊さんだし。表題作は、実家の寺の副住職である29歳の主人公が、妻帯しないと心に決めながらも、色欲に惑わされて「言い訳ライフ」を送る、という物語だ。掲載誌は青年誌「ジャンプ改」。

 あらかじめ申し上げますと、私、この作者の作品を読むのは、これが初めて。既刊への評価をアマゾンで読むと、どうも終わり方に対し、読者の賛否が分かれるタイプの作者らしい。なるほど。私も、この1巻を読んでみて、これが傑作なのか、それとも大風呂敷を広げただけなのか、判断しかねている。とりあえず次巻を読んでみないと、見当がつかない。

 主人公の清玄は、「妻帯しない」といいながらも、女性とつい体を重ねてしまって自己嫌悪に陥る悶々(もんもん)ライフの日々。ところが、清玄の前に見合い相手として現れたのは、マラソン選手として名をはせ、清玄もファンだった清沢節子。清玄は縁談を断るものの、ライバルへの嫉妬心に苦しむ節子は、仏教の教えを乞うために清玄の寺に弟子入りする。清玄の悶々は深まっていく。

 ちょっと崩れた感じの色気がある清玄や、後半で登場する僧侶の清徹も三白眼でイケメン。ちりばめられた仏教用語とその解説に、ちょっとした知識欲も満たしてもらえる。

 しかし、胸にすとんと落ちない部分が私には感じられる。清玄の「妻帯しない」宣言にしても、それが要するに金銭的に妻子を養うのが難しいからなのか、仏教の教えに忠実に従おうとしているからなのか。よく分からない。仏教の教えに添うというならば、色欲には負けておいて、妻帯しない誓いだけを守る気でいるのは、なんか破綻(はたん)があるんじゃないの?と思いもする。

 そして節子の「ねたみ」が「私を簡単にしのいでしまったあの女が憎い」というのは分かるが……「本当に世界レベルで走っていた選手なら、ほかの次元の悩みがあるのではないか」とツッコんでしまう。とりあえず指導者としても引く手あまたなのではないか。まあ、清玄のお寺の風呂に入れていただいて、「お風呂広い。うちじゃ足がのばせない。妬(ねた)ましいゾ!」と、虫のように現れてくる「ねたみ虫」には共感する。

 私は仏教に疎いので、実家がお寺だという同僚に表題作を読んでもらった。「めっちゃリアルです」だそうです。「そう、寺族(僧侶の家族)は跡を継がないと、出て行かないといけないし。檀家(だんか)の数が多くないとやっていけないのもホントなんですよ〜」。そうなのか。とりあえず、私はこの作品の次巻を買うだろう。それは物語の展開が気になるというよりも、この作品の真価を知るため、という側面が大きいような気がする。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、大阪編集局記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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