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2012年6月1日
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漫画偏愛主義

プロの「本気」を見た 僕らの漫画(「僕らの漫画」制作委員会)

文:松尾慈子

写真:僕らの漫画(c)「僕らの漫画」制作委員会/小学館拡大僕らの漫画(c)「僕らの漫画」制作委員会/小学館

写真:(c)ヤマザキマリ/「僕らの漫画」制作委員会/小学館拡大(c)ヤマザキマリ/「僕らの漫画」制作委員会/小学館

写真:(c)麻生みこと/「僕らの漫画」制作委員会/小学館拡大(c)麻生みこと/「僕らの漫画」制作委員会/小学館

 「プロボノ」という言葉がある。市民らが職業上得た専門知識を生かしてボランティアをすることである。企業がすることもあり、例えば新聞社は本来広告料をもらって広告を掲載しているが、市民団体など非営利団体の広告を無料で載せたとしたら、それを「プロボノ」という。私がもし被災地で地元の人に役立つ新聞記事を、朝日新聞のメディア以外に書いたとしたら、それも「プロボノ」だ(余談ながら、私の職能は記事を書く以外にないことに今更ながら気づいて、その汎用性の低さに驚いた)。

 私がこの言葉を聞いたのはもう15年も前のアメリカのテレビ局だった。DV根絶を訴える市民団体のCMを広告料を取らずに放送していた。「これはボランティア?」と聞くと、「違うの、本来それでお金を得るはずのことを、ただでやってあげることが、プロボノワーク」と言われた。それから15年、プロボノが、日本にまで根付いたとは言い難い。

 本書は漫画家による東日本大震災復興支援の「プロボノワーク」である。カラーも違う、描いている出版社も違う漫画家27人が無償で描き下ろした短編を収録し、経費を除いたすべての収益を、岩手・宮城・福島の震災遺児・孤児のための育英基金に寄付するという。電子書籍が先行して販売されていたが、このたび、書籍となった。

 企画の元になったのは「己の最もプロフェッショナルな分野で復興の支援をする」という強い想いだそうだ。参加漫画家は、青木俊直、麻生みこと、井荻寿一、石田敦子、磯谷友紀、板倉梓、今井哲也、えすとえむ、喜国雅彦、国樹由香、小玉ユキ、さそうあきら、信濃川日出雄、進藤ウニ、鈴木マサカズ、そらあすか、手原和憲、とり・みき、ねむようこ、橋本省吾、belne、三宅乱丈、村上たかし、ヤマザキマリ、ヤマシタトモコ、ルノアール兄弟、和田フミエ。

 帯にある「漫画家が出来ること、それは本気で漫画を描くこと。」という文字の力強さに圧倒される。地震と津波、そして原発事故は、そこで生きる人々の生活を基盤から破壊した。そして被災地以外の人々には、「平凡な毎日が続くであろう」といった日常への信頼感を失わせ、また、甚大な被害に対し「何もできない」という無力感を植え付けた。そんな中、プロはプロの仕事をするしかないのである。

 収録された作品については今回言及すまい。すべての作品が震災をテーマにしているわけでもなく、声高に支援をうたう内容でもない。ただ、込められた鎮魂と復興への願いが伝わってくる。担当編集からの言葉「この作品の一つ一つには、(中略)強さと優しさと、そして何よりプロとしての矜持(きょうじ)が漲(みなぎ)っています」。ぜひ本屋で手にとってほしい。950円、446ページでずしりと重い。内容としても買って損はない。

プロフィール

写真

松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、大阪編集局記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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