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2012年6月29日
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漫画偏愛主義

32年も続く壮大な怪作 ツーリングEXP.Euro(河惣益巳)

文:松尾慈子

写真:ツーリングEXP.Euro (c)河惣益巳/白泉社拡大ツーリングEXP.Euro (c)河惣益巳/白泉社

 重大な告白をしなければならない。これは、ある意味、「私はホモ漫画が好きだ!」と叫ぶ以上に覚悟がいる。長年続いたこのコラムで取り上げたことは一度もなかったが、私は実は河惣益巳が好きだ!

 古い絵柄、狂ったデッサン、殺し屋と刑事が世界のあちこちで巡り合い、やがて恋に落ちるなど、あまりにトンデモな設定。多くの正統派の漫画好きから河惣作品が軽くみられているのは承知している。今回、このコラムを書くにあたって、「河惣益巳」をウィキペディアで検索したが、あまりの解説の短さに驚いた。世間の評価なんてこんなものか。だが私は好きなのだ。まあ、おおざっぱに言えばボーイズラブではあるので、「腐女子は好きなんじゃないの」という人もいるだろうが、河惣作品をそうくくられるのは私の本意ではない。

 表題作「ツーリングEXP.Euro」は、河惣の1981年のデビュー作「ツーリング・エクスプレス」の続編である。実に32年も続いている怪作なのである。

 天真らんまんで、10カ国語以上をあやつるICPOの刑事・シャルルと、すご腕の殺し屋・ディーンが世界中の事件現場で巡り合い、いつしか恋に落ちる。文庫版14巻にまとめられた本編では、義父エドの反対を押し切って、シャルルは刑事を辞職、ディーンとともに生きることを選び、最後にはエドも二人を認めて大団円。そのまま幾度かの休みをはさみつつも、特別編が延々と続いているのである。

 あの絵柄と話の強引さに腰が引けてしまう読者も多々いるだろうが、それらの欠点を補ってあまりある物語性の高さなのである。何しろ舞台は世界各国。ロシアのロマノフ王朝、オーストリアのハプスブルク家、ユーゴ内戦、プルトニウム密売などなど。あらゆる世界の事象を舞台に、シャルルとディーンはからんでいく。世界史オンチの私は河惣作品からその史実を初めて知ることも多かった。たとえトンデモであっても、「知っていること」からしか検索できないネットと違って、新しい世界を教えてくれる壮大さが河惣作品にはあった。

 河惣のもう一つのライフワークともいえた「ジェニー」シリーズ(白泉社)はこのほど、27年の連載を終えた。主人公・ユージェニーはアメリカの名門軍閥の出身で、ジュリアード音楽院で学び、グリーンベレーで生き抜いて雇い兵となり、その後英国公爵となり某王族の子供まで産んでしまうという本当にトンデモ設定。しかし、私はジェニーを読んで初めて、スペイン内戦やイスラエルの建国理由を詳しく知ったよ。

 「ツーリング」も特別編となって、昔からの読者の評価も分かれるているようだ。が、私が好きなことには変わりないのである。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、大阪編集局記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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