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2012年7月27日
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漫画偏愛主義

カネで見る野球選手の仕事論 グラゼニ(原作:森高夕次 漫画:アダチケイジ)

文:松尾慈子

写真:グラゼニ[原作]森高夕次[漫画]アダチケイジ(講談社)拡大グラゼニ[原作]森高夕次[漫画]アダチケイジ(講談社)〈『グラゼニ』を検索〉

写真:(c)森高夕次・アダチケイジ/講談社拡大(c)森高夕次・アダチケイジ/講談社

写真:(c)森高夕次・アダチケイジ/講談社拡大(c)森高夕次・アダチケイジ/講談社

 私は野球が分からない。いまだに日本にプロ球団がいくつあるかも知らない。朝日新聞記者の宿命で、夏の高校野球のメーン担当になったときには、冷や汗をかきながらスコアの付け方から教わった。そう、朝日新聞は夏の高校野球を主催している。ついでにいうと、甲子園への出場を決める各地域での大会は「地方大会」という。「甲子園の予選」ではないのでお間違いなく。

 そんな私が初めてまともに読んだ野球漫画は「おおきく振りかぶって」(ひぐちアサ)である。スポーツ理論に裏付けられた練習法と、集めた敵のデータを分析して打ち出す戦略に、目からウロコであった。

 そして、表題の「グラゼニ」もまた、私の中の野球に対する無関心の壁を打ち砕いてくれた。タイトルは「グラウンドには銭が埋まっている」の略。野球選手を金銭面から眺めた、プロ野球の「仕事論」なのである。

 本紙書評欄でも紹介されてしまい、すでに「このマンガがすごい!」の2位にも輝いているのでご存じの方も多いとは思いますが、ご容赦を。

 主人公は高卒8年目の中継ぎ投手・凡田、年俸1800万円。彼の価値判断は「金」。全球団の1軍選手の年俸を丸暗記していて、自分より年俸の低い選手に対しては自信満々、一方、高い選手には萎縮してしまう。

 青年誌「モーニング」で随時掲載されていたのだが、昨年度から連載となった。中継ぎ投手というマニアックな設定で連載は続けられるのか、と心配したが、巻を追うごとに調子を上げている。

 6月にでた5巻では、球団から戦力外だと放り出された選手たちが集うトライアウトを取り上げ、「今年の俺の年俸1億5千万にかかってくる膨大な税金が払えなくなっちまう!」と自由契約になった投手に叫ばせている。そう、今年の年収がゼロでも、税金は前年の収入から換算されるので、40%、つまり6千万円の所得税が課せられるのだ! ホント、現役期間の短い野球選手って大変!! 一方、凡田は酒気帯びでラジオに出演し「明日をも知れぬ僕の現役生活 もっと貯金したいんだよね〜」と生々しいつぶやきを告白し、爆弾発言を連発する。

 この7月にでた6巻では、凡田の契約更改のほか、実況アナウンサー、現役を引退して解説者になっている同郷の先輩らにスポットをあてて、話を広げている。野球のおもしろさを描くというよりは、野球選手たちの生活のおもしろさを描いているのだが、「金カネ」といいながらも実は仲間と野球を心から愛している凡田のキャラがたっていて、ぐいぐいと読まされる作品なのだ。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、大阪編集局記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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