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2012年8月10日
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漫画偏愛主義

人気漫画家誕生までの汗と涙 かくかくしかじか(東村アキコ)

文:松尾慈子

イラスト:かくかくしかじか[作]東村アキコ(集英社)拡大かくかくしかじか[作]東村アキコ(集英社)〈『かくかくしかじか』を検索〉

イラスト:(c)東村アキコ/集英社拡大(c)東村アキコ/集英社

イラスト:(c)東村アキコ/集英社拡大(c)東村アキコ/集英社

 ドラマ化された「主に泣いてます」、アニメ化された「海月姫」、大ヒットとなった育児マンガ「ママはテンパリスト」。ヒット作を連発するシングルマザー漫画家、東村の最新作は、なんと自伝。確かに、これだけの作品を量産しながら子育てもしている東村の人となりを、私も確かに読みたかった。読んでびっくり。そうか、東村アキコは美大出身だったのか。表題作は、高校生・東村の美大挑戦マンガなのである。

 「自分は絵がうまい」。うぬぼれていた高校3年生の東村。生涯の師となる絵画教師・日高健三先生の教室を初めて訪れる日。自分のデッサン見せたら「『天才が来た』ってびっくりされちゃう」と、肥大化した自意識はとどまるところを知らない。

 ところが東村のデッサンを、日高は「はい全然下手クソでーーーす!」と竹刀を振り回して一喝する。そして東村に命じられたのは1枚12時間以内で石膏(せっこう)デッサンを描くこと、週5で教室に来ること。さらにセンター試験8割得点。怒濤(どとう)の受験対策の日々へ突入である。

 とにかく、日高先生のキャラがすごい。絵画教室では彼が法律。女子にだって容赦なく竹刀をふるう。だが、いつでも日高は直球でうそがない。東村は大人になってから「もう何が本当で何がうそなのか分からない世界を生きていて(中略)そんな時はいつも先生のこと思い出します(中略)私の先生」と独りごちるのだ。

 結局、東村は日高の元へ足かけ8年も通うことになったという。東村の驚くべき早描きや量産は、きっとこの教室ではぐくまれたのだろう。人間、努力なしでは天才にはなれないんだな、と痛感した。

 とりあえず、1巻は美大の1次試験を通過したところで終わる。「え〜。結局、どこ受かったの!?」と続きが待ちきれなくなり、ネットで調べてしまったよ。おそらく、×美大。そうだよね!? え〜、私、町ですれ違ってたかもしれないんだ。

 私自身は振り返ってみれば、私の高校でまじめに勉強する生徒は珍しかったので、高校の先生たちにとても優しくしてもらったと思う。分からないところを聞きに行くたびに、数学の先生も、英語の先生も、現代国語の先生も、丁寧に答えてくれた(進学校だと先生いちいち放課後に質問に答えてくれないって聞いたんですけど、ホントですか?)。数学の先生に至っては、私が朝日新聞に入社したことを知って、わざわざ石川県の高校野球関係者に私のことを知らせてくれたらしい(M木先生、ありがとうございます)。

 人生塞翁(さいおう)が馬であり、また努力が必要なのだ。「かくかくしかじか」。東村が人気漫画家になるまでに流したであろう、涙と汗が詰まっていて読む側の胸に迫る。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、大阪編集局記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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