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2012年11月2日
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漫画偏愛主義

気がつけば非リア充大集合! 理不尽のみかた(柳原望)

文:松尾慈子

写真:理不尽のみかた[作] 柳原望(白泉社)拡大理不尽のみかた[作] 柳原望(白泉社)〈『理不尽のみかた』を検索〉

写真:(c) 柳原望/白泉社拡大(c) 柳原望/白泉社

写真:(c) 柳原望/白泉社拡大(c) 柳原望/白泉社

 「高杉さん家のおべんとう」(メディアファクトリー)が好評な筆者が、レディース誌「シルキー」(白泉社)で連載している表題作。検察審査会の事務局に勤める女性・縁が、理不尽に憤る人々に相対する日々を描いている。

 検察審査会とは何か? 警察や検察が捜査した事件というものはすべて起訴となるわけではなく、証拠が足りない・裁判にかけるまでもまない、という理由で「不起訴処分」になることもある。検察が下した不起訴処分に対して納得いかないときに、事件の被害者や親族の方々が訴えでる場所、それが「検察審査会」なのだ。無作為に選ばれた市民11人が、市民感覚で「起訴すべきだ」「不起訴不当、もう一度捜査しろ」「不起訴相当、裁判しなくてもいいよ」と審査する。

 主人公・縁はその事務局を担当している事務官だ。事務局職員は被害者・加害者どちらも助けてはいけない。自分にとっての「理不尽」が納得できないと訴える被害者に対して、アドバイスをしてもいけない。事務官は空気になるべし。縁自身、夫から一方的に別れを告げられるという理不尽な目にあっていて、それにも文句をいわず飲み込んでいる。非リア充(リアル、つまり現実が充実していない、という意味ですね)を突っ走っていたが、イギリスから縁の隣に引っ越してきた日本文化オタク・アンドリューとの交流もあって、少しずつ閉ざしていた心の扉が広がっていく。

 個人的には、オタク弁護士・谷崎に心惹かれる。この長台詞には刮目だ。「この日本においてサブカルチャーの地位は非常に低い。現に事件を起こした者がサブカルチャーに心酔していた場合、『被告人の幼い精神性が』と表される場合が多々ある。この趣味は秘せざるをえないのだよ」。おお、その通り! 私も、本業で知り合った人から「ネットであなたの経歴、知りましたよ」と言われると、非常に動揺する。

 私は入社してから仕事で検察審査会を知ったのだが、普通の人なら小沢一郎氏の事件で初めて知った人が大半ではなかろうか。そもそもは作者の友人が検察審査会事務局職員だったからだそうで、作中のエピソードはなかなかリアルに感じられる。アンドリューの引っ越し荷物をほどくのに、大家さんが当然のように縁に手伝いを頼み、「大家さん、公務員のことをオールマイティな公僕だと思ってる」と縁が思うあたり、実際にありそう、ありそう。

 検察審査会にかかるような事件なんて、現実には笑える話ではないのだろうが、本作はうまくコメディーにまとめている。「そこをなんとか」(麻生みこと・白泉社)をはじめ、最近女性向けのリーガルコメディーが上質なものが多く、うれしいことだ。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、大阪編集局記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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