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2012年11月16日
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漫画偏愛主義

知ったかぶれる文藝コミックエッセイ よちよち文藝部(久世番子)

文:松尾慈子

写真:よちよち文藝部[作] 久世番子(文藝春秋)拡大よちよち文藝部[作] 久世番子(文藝春秋)〈『よちよち文藝部』を検索〉

写真:(c) 久世番子/文藝春秋拡大(c) 久世番子/文藝春秋

写真:(c) 久世番子/文藝春秋拡大(c) 久世番子/文藝春秋

 私は文学部卒だが、まったく文学を読んでいない。それが密かなコンプレックスだった。大学の同級生たちはみな中学校や高校のうちに名作といわれる作品は読破していて、私はしばしば自らの教養のなさに、疎外感を感じたものだった。

 そこで、本作の帯のうたい文句「読んでなくても大丈夫!」に強く心引かれた。読まねばならぬ、読んだほうがいい、それは分かっているけれど、今更読む時間も気力もない!という私に「知ったかぶれる文藝コミックエッセイ」と銘打たれた本書が心に響かないわけがない。

 一読して、「なんだ、久世番子ってそんなに文学読んでなかったんだ」というのが第1の感想。ご同類だったのかと勝手に安心してしまった。いやすみません。「暴れん坊本屋さん」(新書館)で彼女を知ると、いかにも文学少女ってイメージだったので。

 久世のあとがきによると、締切間際に手にとって、なのに「心をひっつかんでぶんまわし、ときめかせ」、名作の数々を「すごいです文豪!!」と絶賛する。いや、私なら多分、文語調の作品とか絶対読めないよ…。自分と久世との文学的素養の隔たりを感じるのだが、そこは横においておこう。久世も文学初心者、ゆえにタイトルは「よちよち文藝部」なわけだ。

 取り上げた文豪たちは、夏目漱石、芥川龍之介、中島敦、宮沢賢治と、誰でも名前はきいたことのある15人。それぞれのキャッチコピーがふるっていて、太宰治はそのファンの熱さゆえに、「フィーバー桜桃忌」。太宰の弔いのため、菩提寺に集まるファンたちが熱く語り合う様子を、参加した久世がツッコミ入れつつ描写する。そう、いくら私でも太宰治は教科書で読んだし、彼の「人間失格」は読んだ覚えがある。内容は一切記憶に残っていないが。「あなたなら自分の心の内を見せてもいいと うっかりそう思わせてしまう作家」。その通り、のような気がする。

 そのほか、森鴎外は「愛か出世か学問か」など、イメージをばっさり切り取った各章のタイトルを読むだけでも面白い。そして読んでみると、名作の内容を紹介しつつ(ここ重要!)、文豪たちの人間像を示してくれる。

 「暴れん坊本屋さん」で一世を風靡した久世。ファッションエッセー「神は細部に宿るのよ」(講談社)には私も強く共感したが、本作もなかなか傑作、読んだ気になる、知ったかぶれる、そういう意味でおすすめしたい本なのだ。

 ところで告知です。当コラム、来年より「朝日新聞デジタル」という会員限定のサイトに引っ越しする予定でして、こうしてみなさまに気軽にお目にかかれるのも、年末までとなりそうです。少しでも「寂しい」と思っていただけるなら、朝日新聞デジタルにご登録いただきますよう、よろしくお願いいたします。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、大阪編集局記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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