現在位置:
  1. 朝日新聞デジタル
  2. エンタメ
  3. 映画・音楽・芸能
  4. コラム
  5. 漫画偏愛主義
  6. 記事
2012年12月14日
このエントリーをはてなブックマークに追加
mixiチェック

漫画偏愛主義

西炯子ワールド全開!エッセー 一生中2じゃダメかしら?(西炯子)

文:松尾慈子

書影:一生中2じゃダメかしら?[作]西炯子 (小学館)拡大一生中2じゃダメかしら?[作]西炯子 (小学館)〈『一生中2じゃダメかしら?』を検索〉

イラスト:(c) 西炯子/小学館拡大(c) 西炯子/小学館

イラスト:(c) 西炯子/小学館拡大(c) 西炯子/小学館

 前にも書いたが、私が西を知ったのはもう20年以上前。雑誌「JUNE」の「竹宮惠子のお絵かき教室」であった。学生時代の西はそこに何度も投稿し、時折掲載されていた。その粗削りな絵柄と、繊細さを隠すこともしないトンガったストーリーに、なんともいえない魅力を感じていた。

 その後、「僕は鳥になりたい」(小学館)などセンシティブな作品群で一部に高い人気を博したと思えば、「ローズメリーホテル空室あり」(小学館)などで荒唐無稽なストーリーを展開し、そして不器用な恋を繰り返してきたアラフォー女性と熟年男性との恋物語「娚の一生」(小学館)で大ブレークした。行く末を見守っていただけに、西のこの大人気、うれしくも感慨深い。 

 本作は3カ月で7作品という驚異的なペースで刊行された西の作品群の1つで、エッセーである。判型がコミックサイズで、明らかにコミックと混同させる本の作りなのだがエッセーコミックではないのでご注意を。

 前のエッセー集「生きても生きても」(小学館)に続いて、辛らつな(という表現が適切かは分からないが)、「西が見ている社会」が見えてくる。「『思い出作り』って何だ。『記録媒体に美しく残る自分の姿』という思惑がちょろりと見える」。そうだよねえ、大失敗やののしり合い、すべてが思い出のはずなのに、思い出作りにそれらは含まれないねえ。

 私にとって西のエッセーは、「共感する人がいてくれることを感じる」ものだ。日ごろ世の中に対して感じる違和感を、西に言語化してもらうことで、自分の思考の整理ができ、また同じように西も違和感を持っているのだという連帯感を得られる。「不器用」「マンU」に関する記述も、まさに「そのとおり!」という感じ。不器用と呼びかける相手が実はマジョリティであること。サッカーファンを「合わない」と感じる、その感じ! まさに私の思う、それである。

 しかし、一方で感じるのは、西の深い深い孤独である。「生きてて楽しくないです でも不満はないです」。「読んでくださる方々には感謝と連帯感しかない。それは喜びとは別の所にあるもので、喜びでは創作というエンジンは回り続けることができない」。

 大ヒット作を出してなお、この孤独、そして以前にまして増えた仕事量と、クオリティを落とさないこのプロ精神。西の夢というか目標が「生涯自分の収入で暮らす」だそうで、それを実践しているところに頭が下がる。

 20年近く前のイラストなども収録されており、オールドファンとしては懐かしい限り。それについての西の解説で、色のセンスが悪いことを指摘され、もうその分野で高みを目指さなくなったことを、「他にすることがあるからです」と西は言う。

 その割り切りは大人にしかできないよね。そうやって割り切れるようになった西が好きだ。お若い方にはまだこの境地までたどり着いてほしくは無い。10代、20代にもがき苦しんでこその、この境地であろう。

 しかし、3カ月で7作品刊行って、激しすぎないか? それぞれに帯がついてて、帯の裏面は描き下ろしの1コマ漫画と、100の質問への回答などが載っている。そんな、そこまで身を削って読者サービスしなくていいのに。そして新刊「なかじまなかじま」(白泉社)では、サエない女の子が、有能でちょっと変わり者の男性に熱烈に愛されるパターンである。「娚の一生」で掘り当てた金脈を、受け継ぐつもりなのだろうか。それはそれとして、西の選択としてアリなのだろうと思う。勝手に戦友のように思っているのだが、西よ、体に気をつけて、がんばってくれ。

プロフィール

写真

松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、大阪編集局記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

検索フォーム

朝日新聞購読のご案内
新聞購読のご案内 事業・サービス紹介