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2012年12月28日
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漫画偏愛主義

物語作りのうまさに舌を巻く プラネット(遠藤淑子)

文:松尾慈子

写真:プラネット[作] 遠藤淑子(祥伝社)拡大プラネット[作] 遠藤淑子(祥伝社)〈『プラネット』を検索〉

写真:(C)遠藤淑子/祥伝社拡大(C)遠藤淑子/祥伝社

写真:(C)遠藤淑子/祥伝社拡大(C)遠藤淑子/祥伝社

 今年も押し迫ってきた。先生も走る師走というが、ここのところ、人気漫画家も非常に酷使(?)されているようで、ちょっと気になる。西炯子の5社7作品連続刊行にも驚いたが、遠藤淑子が5カ月連続新刊発売?過去の作品の復刊がメーンとはいえ、もともと寡作な作家なのに、コキ使って大丈夫?と昔ながらのファンとしては思ってしまう。まあ、漫画家は人気商売。西の恐るべき刊行ペースも「旬のうちに売れるだけ売るのだ」という気持ちであろうと推測される。しかし、なぜ遠藤が? 有間しのぶの連続刊行にも驚いたけど、なんか今ブームなのか?連続刊行。

 思い返せば8年前、私がこのコラムを始めたときの第1回には、遠藤の「ヘヴン」を取り上げた。昔からそれほど好きだった。遠藤作品は、SFでも時代ものでも、「正直者が馬鹿をみる」ような社会を描きながらも、正直者は正直に生き、悪党どもに説教し、脇役にツッコまれつつ、時には大爆発などさせながらも、自分の大事なものは失わない。それゆえに読者は正直に生きることへの安心感を得るのだ。ちなみに、コメディーであるのに、爆発と説教と動物は遠藤作品に欠かせないらしい。

 本作「プラネット」は、主人公の女装男子・リースが両親を捜す旅に出るが、旅の連れは口の悪い妖精、しかも着脱可能な角がある。ファンタジーかと思わせて、実はSFである。読み進めていくと、これまでのふとした場面の中にも、実はヒントが隠されていたのに気づいて、遠藤の物語作りのうまさに舌を巻く。人型ロボットがでてくるあたりは、文明が衰退した後の世界を舞台にしたSF「ヘヴン」を連想させるが、物語に既視感はない。「どうして私は生まれてきたの?」と帯にあるが、その答えは「どーでもええわい とにかく(中略)ありがたく生きときゃええねん」だ。これが遠藤作品に通底する、揺るぎない生命賛歌ともいえる作風なのだ。

 「ヘヴン」では、予想外に話を長くせねばならなくなり、遠藤が途中から必死に設定を作り上げた、と書いてあった。「プラネット」も、一話を書き上げてから設定を練ったのであろうか。本作は第1巻のくせに、1ページ目にいきなりあらすじがあるのだが、これはこの連作の第1話が遠藤の既刊「アリル」(祥伝社)に収録されているから。私がこの第1話を読んだ時、「え? リースの両親とか、連れがロボットだとか、謎解きがまったくないまま、ここで終わり!?」と思ったのだが。あにはからんや。久々に、続きが気になる長編になりそうだ。

 ちなみに、私の好きな漫画の今年を振り返ってみよう。「秘密」(清水玲子)がとうとう終わり、いろんな意味で衝撃を受けた。あれはファンサービスだったのだろうか・・・。「大奥」(よしながふみ)はそろそろ終わりそうで寂しい。現段階で続きが待ち遠しい長編漫画は「おおきく振りかぶって」(ひぐちアサ)、「3月のライオン」(羽海野チカ)、「大奥」「きのう何食べた?」(よしながふみ)、「チェーザレ」(惣領冬実)、「チャンネルはそのまま!」(佐々木倫子)、「毎日かあさん」(西原理恵子)、「ヒストリエ」(岩明均)、「銀の匙」(荒川弘)、「姉の結婚」(西炯子)、「グラゼニ」(森高 夕次・アダチ ケイジ)、「もやしもん」「純潔のマリア」(石川雅之)、などである。あ、気づいたら女性作家が大半だ。偏愛ですみません。

プロフィール

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松尾 慈子(まつお・しげこ)

1992年朝日新聞入社。金沢、奈良支局、整理部、学芸部などを経て、現在、大阪編集局記者。漫画好き歴は四半世紀超。一番の好物は「80年代風の少女漫画」、漫画にかける金は年100万円に達しそうな勢いの漫画オタク。

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