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演目紹介
第8回(08年1月15日)の演目

2008年1月19日

  • 文 京須偕充

 今回のナビゲーターは第3回以来2度目の柳家花緑さん。二つ目はこれも第3回以来2度目の三遊亭きん歌さん、そして花緑さんの弟子で前名・緑太の花ん謝さん。前座は花緑門下の花いちさんでした。

 「ナビゲーターと二つ目の一方が師弟同士というのは初めてのケースだ。とっておきトークのコーナーではこれまでの先輩・後輩という関係とは違った話が聞かれるかも、という期待がある反面、話のテーマが偏るおそれもあるので、もう一人の二つ目には前回でもお馴染みのきん歌が起用されたということだろう」

 とっておきトークは結構まじめに、若いハートで盛り上がりましたね。

 「そう。この会は出演者が口を揃えて言うほど『いいお客様』が集まっているので、客席の反応がいつも素直で生き生きしている。そのためか、お世辞でなく『お客様はありがたい』と言っていたし、今の若い世代の落語家がいかにお客様を大切に考えているか、よくうかがえた」

 きん歌さんがしみじみそう言っていましたね。落語ブームを支えているのは、こういう演者とお客の絆(きずな)ではないかと改めて思いました。

 「メディアに売れている花緑の考え方がしっかりしているのもうかがえたね」

 テレビに出るってどういうことなのか、今放映中の朝のテレビドラマ『ちりとてちん』に例をとって話してくれたのは、わかりやすかったです。ブームに乗って誘い合わせてやって来る女性客と、相変わらず孤独にやって来るおじさん客についてのきん歌さんのとらえ方もおもしろいと思いました。

 「だけど、誘い合わせ組はいずれ他の楽しみに目移りするだろうけど、孤独なおじさんは生涯来てくれるだろうという花緑の予測はその通りだと思うね。花ん謝が師匠の花緑に遠慮なく、というより特別の意識なく自分の意見を言うのも新鮮な光景だったよ」

 さて演目は、花いち『道灌(どうかん)』、花ん謝『長短』、きん歌『蛙茶番(かわずちゃばん)』、花緑『天狗裁き』でしたね。

 「『道灌』は前座噺としては大きな、むずかしい噺だが、柳家小さん系統ではこれを入門者の初稽古の噺にしている。これをこなせれば立派に一人前の前座ということだろう。その線は満たしていたね」

 『長短』も先代・小さん師匠の十八番でしたね。

 「十八番も十八番、あれほどの『長短』は空前絶後だと私は思っているよ。しかも短い噺で、まるで小さんのエッセンスだった。それに近づくのは至難だけれど、この種の噺を聴けば、その若手の資質や将来性がよくうかがえる。スジのいい『長短』だった」

 『蛙茶番』はちょっと下(しも)がかった噺ですね。

 「ちょっとどころか、やりようによってはかなりバレ(艶笑)に傾く。だけどその運びが天真爛漫と言おうか脳天気と言おうかなので朗らかに笑える。素人芝居ながら古風な歌舞伎狂言が背景にあることもバレの色を薄めている。芝居の段取りなどを簡略にしたやり方をしていたが、明るく演じて大いにウケた」

 こういう噺を聴くと、古めかしいテーマが少しも古く感じられません。

 「それが落語のすばらしさだよ。『蛇に睨(にら)まれた蛙(かえる)』という古いたとえを知っていれば、サゲも一段とおもしろく聴けるだろうよ」

 『天狗裁き』はよく聴く噺ですが、花緑さんの高座は新鮮でした。

 「桂米朝が現行の形にまとめてから現代にもフィットする噺になった。この種の噺はね、進行過程でお客がだんだんに先行きを予測する。そこで客におもねたり、過剰な思わせぶりをやって小さな手柄をあげていては噺が卑しくなって、あのすばらしいサゲに汚れが付く。客におもねず、ストレートに勢いよく進めるのが一番。その点でも最近の花緑の成長と充実ぶりが見てとれた」

 次回は4月4日(金)、ナビゲーターは柳家喬太郎、二つ目は古今亭朝太と春風亭一之輔です。

プロフィール

京須 偕充(きょうす・ともみつ)

落語プロデューサー

1942年、東京生まれ。ソニー・ミュージック(旧CBS・ソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の『圓生百席』や古今亭志ん朝の作品など、数多くの落語レコード、CDの制作を手がけてきた。

有楽町で開かれている『朝日名人会』に加え、06年4月に浜離宮朝日ホールを舞台に始まる『朝日いつかは名人会』をプロデュースする。

『落語博物誌』(弘文出版)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『古典落語CDの名盤』(光文社新書)など、落語に関する著作も多い。

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