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演目紹介
第9回(08年4月4日)の演目

2008年4月11日

  • 文 京須偕充

 第9回朝日いつかは名人会は4月4日19時から浜離宮朝日ホールで開催されました。前座・林家小ぞう、二ツ目・春風亭一之輔&古今亭朝太、ナビゲーター真打・柳家喬太郎。

 一之輔の演目は『鈴ヶ森』。よく演じて得意にしている噺です。鈴ヶ森とは現在も品川区内に地域名として残る東海道沿いのかつての刑場。その寂しい暗闇に追剥(おいはぎ)が現れたものの、間抜けな子分がまともに脅しの口上さえ言えず、旅人にコケにされるストーリー。トンマな泥棒の噺はいくつかありますが、これは親分の教えた口上をまともに言えない、いわゆるオウム返しの失敗噺の要素を加味しています。得意ネタだけに独自なくすぐりも入れておもしろく演じました。

 古今亭朝太は予告にも書きました通り古今亭志ん朝最後の弟子で、現在の師・志ん五から志ん朝の初名を付けてもらいました。その志ん朝を偲んで『火焔太鼓』を正面から捉えて演じ、地力のあるところを示しました。『火焔太鼓』はいつも女房に頭の上がらない、お人好しだけど商売下手な道具屋が仕入れたばかりの汚い太鼓を大名に三百両で買ってもらうことに成功するストーリー。そもそも五代目古今亭志ん生に始まる古今亭のお家芸の噺です。

 その志ん生のテープに偶然出会って弟子入りしたいと思ったが、調べてみたら志ん生は自分の生まれる前の年に亡くなっていた、という「とっておきトーク」での朝太の話は笑わせました。朝太、一之輔ともに、いわゆる正統派の師匠を選んだだけに、トークの話題は入門、稽古の話が中心でとても内容に富んでました。

 そういえば朝太の最初の師匠で今は大師匠(おおししょう・師の師)にあたる志ん朝と一之輔の師・春風亭一朝の師匠、つまり大師匠の五代目春風亭柳朝とが若い頃に「二朝会」という勉強会をやっていた――、そんな話題も出ました。つまり当夜は図らずもミニ・二朝会のようになったというわけです。

 二朝会も三十年以上も昔の話になりましたが……。

 柳家喬太郎は廓話(くるわばなし)の中でも明るくにぎやかな『錦の袈裟(けさ)』で笑わせました。町内十一人連れ立っての吉原遊び、何か話題になることをやろうというハネッ返りの発想で錦の布地を全員が褌(ふんどし)にして締め、宴たけなわのときに裸になって総踊りをしようというばかばかしい企画。十人前の錦地はあるが一枚たりない。お寺の和尚に袈裟を借りて下腹に締めようとは不届きな考え。やりようによっては下品になりかねないところを爽やかにこなしたのは喬太郎の知性でしょうか。

 次回は7月4日夜、ナビゲーター役は林家たい平、二ツ目は桂花丸と古今亭駒次です。

プロフィール

京須 偕充(きょうす・ともみつ)

落語プロデューサー

1942年、東京生まれ。ソニー・ミュージック(旧CBS・ソニー)のプロデューサーとして、六代目三遊亭圓生の『圓生百席』や古今亭志ん朝の作品など、数多くの落語レコード、CDの制作を手がけてきた。

有楽町で開かれている『朝日名人会』に加え、06年4月に浜離宮朝日ホールを舞台に始まる『朝日いつかは名人会』をプロデュースする。

『落語博物誌』(弘文出版)、『落語名人会 夢の勢揃い』(文春新書)、『古典落語CDの名盤』(光文社新書)など、落語に関する著作も多い。

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