さいたま文学館の展示に登場した「らき☆すた」御輿(みこし)。昨年、神社の夏祭りで使われた
マンガの舞台は時にファンの“聖地”となる。それらはしばしば地方色豊かだ。特に近年、作家の身の回りの出来事を描いた「エッセーマンガ」の人気で、ご当地色は強まっている。「地方マンガ」「ご当地マンガ」は、その多様さによって、描かれた地域や時代をリアルに映し出している。
■ゆるい日常がリアル
「らき☆すた」現象は一昨年、始まった。埼玉県出身の美水(よしみず)かがみさんが、女子高生のゆるい日常を描いた作品で、その舞台のモデルとなった、埼玉県鷲宮町の神社に多くのファンが訪れるようになった。
そんな現象をきっかけに、さいたま文学館(埼玉県桶川市)が15日まで企画展「マンガ聖地巡礼inサイタマ☆」を開いている。『エースをねらえ!』(山本鈴美香)、『行け!稲中卓球部』(古谷実)、『おおきく振りかぶって』(ひぐちアサ)。埼玉県が舞台やモデルになった人気マンガ17作品を集めた。
白井哲哉・主任学芸員の分析では、埼玉マンガは大きく分けて「スポーツの県南部」と「ほのぼのギャグの県東部」。時間軸では70年代からの南部(さいたま市など)→90年代以降の東部(春日部市など)の順で、宅地開発の流れと並行するという。90年代に入ると『クレヨンしんちゃん』(臼井儀人)など作品が急増。埼玉は「典型的な郊外の日常」として描かれる。
■方言ふんだん 個性的
地方マンガのムーブメントが、全国的に起きたのは70年代らしい。『土佐の一本釣り』(青柳裕介)や、『博多っ子純情』(長谷川法世)などが現れ、方言をはじめ、個性豊かな地方色がふんだんに使われた。さらに90年代以降に増えた身辺雑記風の「エッセーマンガ」では、いきおい地方色がにじみ出る。例えば『とりぱん』(とりのなん子)は、庭に来る鳥たちを主役に、北国の暮らしを描いている。
それらの特徴について、京都国際マンガミュージアムの吉村和真・研究統括室長は「自分に縁のない土地でも小旅行気分を味わえたり、『どこでもあてはまる日常』だったり。地域を具体的に描く作品には、作者自身の愛着や発見が強く反映されており、物語のリアリティーを高めている」と話す。
昨年出版された『このマンガがすごい! SIDE―B』(宝島社)の中で、筆者の一人、渡辺水央(みずお)さんは全国の「ご当地マンガ」を分析した。それによると――。
東北は「戦い」。霊能力者、剣道、演歌などモチーフは様々ながら、他者や自己と戦う物語が多い。四国は「屈折も含め、郷土愛が濃い」。代表は『土佐の一本釣り』などの青柳裕介。西原理恵子も高知弁の作品を描く。
「少女マンガの聖地」とされるのが、中国地方。全編山口弁でキラキラした恋と青春を描いた『瞬きもせず』(紡木たく)。映像化された『天然コケッコー』(くらもちふさこ)と『砂時計』(芦原妃名子)は島根がモデルだ。
ご当地マンガの魅力を、渡辺さんは「行動範囲や人間関係に制約のある地方こそ濃厚なドラマが描ける。読者が『あるある』と思う普遍性が生まれやすい」とみている。(小川雪)