監督に初挑戦したサラ・ポーリー
「スウィート ヒアアフター」「死ぬまでにしたい10のこと」などで知られるカナダの人気女優サラ・ポーリーが、「アウェイ・フロム・ハー 君を想(おも)う」で監督業に進出した。妻が認知症になったことで、長年連れ添った夫婦の隠れた一面があらわになる。祖父母に近い世代の愛の形に、若き才女はなぜひきつけられたのだろう。(深津純子)
結婚して40年余り。湖畔の家で夫婦は静かな隠居生活を送っていた。だが、記憶障害が進んだ妻は介護施設へ。久々の面会日、妻は夫が誰だか忘れていた。入所者の男性と親しげにする妻を見て夫の心は波立つが、彼自身も不貞で妻を傷つけた過去があった。
アリス・マンローの短編「クマが山を越えてきた」(新潮社刊『イラクサ』収蔵)を自ら脚色。「美しく、親密で、ゾクッとする物語。読みながら映像が頭に浮かんだ」。初めて読んだのは21歳、撮影したのは27歳のときだった。
「同世代の若者の恋愛劇の方が受けるかもしれない。でも、若い子がくっついて終わる話より、成就した恋のその後の方が奥が深い。互いを知り尽くした男女の間にどんな感情が流れるのか。出会いや別れのドラマより、その間の部分に心をひかれるの」
老人の話にありがちな回想シーンは禁じ手にした。夫婦の現在を見つめることで、2人が歩んだ歳月を浮かび上がらせる。何げないしぐさや会話から心の機微を描く手際は鮮やか。4歳で子役デビューしてから25年、役者として様々な監督と仕事した経験が自分にとっての「映画学校」だったという。
妻役のジュリー・クリスティは、この作品でゴールデングローブ賞主演女優賞を受賞。「ダーリング」「アフターグロウ」で知られる名女優の復活劇も話題になった。
「原作を初めて読んだ時から、彼女の姿が頭にあった。大先輩に新米監督が演出するのは緊張したけど、『何がしたいの?』『なぜそう思うの?』と挑発してくれたおかげで、ベストの力が出せた」
女優の魅力は若さだけではないことを示せたのがうれしい、とも。「役者として、監督として、私も息の長い活動をしたい」
31日から東京・銀座テアトルシネマ。各地でも順次公開。