老いた親と成人した子。互いに将来を気遣う「面倒だけどありがたい」関係を映した「歩いても 歩いても」が28日公開される。監督はドキュメンタリー出身の是枝裕和。「これまでは取材の延長で撮ってきた。劇的な転換点になる作品」と語る。
15年前に事故死した長男の命日。父母(原田芳雄、樹木希林)の暮らす実家に、次男(阿部寛)一家と長女(YOU)一家が里帰りする。次男の目には開業医を退いた父が高慢に映る。一方、母には何かと世話を焼かれる。
「3年近く前、母が亡くなった。後悔の気持ちをはき出さないと前へ進めなかった」と是枝監督は語る。「劇中のせりふの半分以上は、僕の母が実際に発した言葉」という。「1本虫歯になると、全部駄目になる」という説教とか、「まだ若いんだから」と言うかと思えば「もう若くないんだから」といさめたりするところとか。
「元気な時は厄介だが、失って初めてかけがえのないものだったと分かるのが家族。それを、ディテールにこだわることで浮き上がらせた」
例えば、風呂場の洗濯機の上に母が置いた歯ブラシと着替え。老いた父のために、知らぬ間につけた風呂場の手すり、いつの間にか欠けたタイルに、子のいたたまれない気持ちを重ねる。
医院兼住居だった実家を改築し、父権の象徴だった診察室を子ども部屋に変えようか、と話す孫たちの姿には、世代交代の定めと切なさがにじむ。「家自体を、親の似姿として擬人化してみた」
全盛期の日本映画は、ホームドラマの名作が数多く作られていた。「成瀬巳喜男監督の作品は参考になった。家の間取りが手に取るように分かる空間を作りたかった。そうすれば、振り向く動作一つにも意味が込められる」
是枝監督は、カルト教団信者の家族を描いた「ディスタンス」や、親に捨てられた子どもたちを主人公にした「誰も知らない」など、「欠如する家族」を通して、社会の深層や人間のありようを透かして見せてきた。
ただ、これまでの作品では「内に閉じてしまうことを恐れて、私的な記憶を掘り下げることを避けてきた」と告白する。今回は「個人的な思いの強さを残しつつ、私的なものを引きはがせて広がりが出た。何も起きない日常の面白さを発見した」。
東京・シネカノン有楽町1丁目などで。全国順次。(宮崎陽介)