520人の命を奪った85年の日航機墜落事故。当時、新聞記者としてかかわった横山秀夫のベストセラー小説を映画化した「クライマーズ・ハイ」が、7月5日に全国公開される。「新聞記者として、親として、主人公の愛すべき愚直さを描いた」と原田眞人監督は語る。
群馬県の墜落現場を抱える地元新聞社。事故報道を取り仕切る「全権デスク」に任命された記者の悠木(堤真一)は上司と衝突を繰り返し、部下からも突き上げられる。極限の精神状態の中、超一級のスクープになりうる情報がもたらされる。
原作に心を動かされた原田は約5年前、映画化に動いたものの実現に至らなかった。「今回、監督の話があったときは感慨深かった。他の人にはやらせたくなかった作品」と強調する。
一方で、生みの苦しみも大きかった。原作者の横山から「事故の時間軸のままで」「原作のダイジェストでは困る。あなたの色を」など注文がついたという。「一番興味があった親子の情、新聞社という大家族の物語の要素を強く入れた」。横山との電話や手紙のやりとりを何度も経て、脚本にOKが出たのは撮影開始1週間前だった。
過去に手がけた「金融腐蝕列島・呪縛」や「突入せよ!『あさま山荘』事件」も実際の事件をモチーフにしているが、とりわけ悠木というキャラクターに愛着を感じさせる。「(過去2作の)銀行員や警察官と違い、悠木は二律背反的な個人の悩みを持っている」
特ダネをめぐる記者の宿命と倫理観、父親としての向き合い方を問われ、そして悩む。「愚直ゆえに負けたように見えながらも、最後は自分の哲学を通すのが魅力」と言い切る。
「お前を調子づかせるために520人死んだんじゃない」。悠木が若手記者を怒鳴りつける場面のセリフだが、「われわれも、調子づかされて撮っているわけじゃない」との自覚が強かったという。遺体の描写に配慮したほか、遺族の登場も原作の範囲にとどめた。一方で、自らのこだわりで「事故原因には諸説ある。再調査を望む声は、いまだ止(や)まない」とテロップを入れた。「見識とジャーナリスティックな視点を持って取り組んだ」(高橋昌宏)