27日(日本時間28日)に開幕した第65回ベネチア国際映画祭は、「日本」が風を起こしそうだ。世界の名だたる監督が顔をそろえた昨年と違い、メーンのコンペティション部門は新進気鋭が目立つ。その中で、北野武と宮崎駿、押井守の3監督や、外国作品で異彩を放つ日本人俳優も映画祭をにぎわすはずだ。
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今年100歳のポルトガルの名匠マノエル・ド・オリベイラ監督が開幕を告げた映画祭は、新たな100年を見据えたように新風を求めている。円熟の日本人監督の個性と前進は、その道しるべ役といえそうだ。
金獅子賞、監督賞も受賞している北野監督の「アキレスと亀」は、売れない画家が芸術性を追求する物語。画商ら周囲から理解されず、苦しむ姿を自ら演じる。自身と俳優や芸術家としての人格の葛藤(かっとう)を、過去2作と合わせた3部作の3作目で答えを出したという。「血と暴力」の監督がギャグを抑え、夫婦の情愛を繊細に描く新境地だ。
宮崎監督「崖(がけ)の上のポニョ」は、魚の女の子ポニョが5歳の宗介に恋する話。人と自然の調和・共生を、壮大な時空の中で精細に描いてきた監督によるおとぎ話は、CGを排し、いびつな線も残した「実線主義」という原点回帰。巨匠の果断は驚きを与えそう。
「イノセンス」など、記憶や魂、身体も人工化された「人間」のアイデンティティーの在りかを問いつめてきた押井監督。新作「スカイ・クロラ」では疑似空間からリアルな下界に降り、人間を見つめる。思春期のまま年をとらない子供たちが、生を実感するため戦闘機で戦う。永遠の平和と無為に苦しむという逆説が、グルジア情勢に揺れる西欧の目に、どう映るか。
27日付の伊の主要紙「レプブリカ」は、約1ページをさき、このアニメ2本を特集。「戦争に抗(あらが)う巨匠」と題して、大人と子供の対話の欠如、子供が出征する国々や、子供の概念が変化する現代世界へ問いかけた、と記した。
猟奇、倒錯的な作品が得意なバルベ・シュローデル監督「INJU」は、江戸川乱歩「陰獣」が原作。むち打たれてもだえる芸者役ら、日本の俳優が多数出演。ブノワ・マジメルほか、石橋凌らが出演する。香港出身の余力為(ユー・リクウァイ)監督「プラスティック・シティ」は中国、ブラジル、日本合作。オダギリジョーが日系ブラジル人役で闇稼業に走る。監督は、中国の賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督の撮影で知られ、長編デビュー作がカンヌ映画祭のコンペに選ばれた気鋭だ。
現地では、今年のコンペは地味との声が専らだ。ハリウッドが独立系映画やイタリア作品、日本のアニメに追いやられた、とロイター通信は配信し、米脚本家組合のストの影響もあったと映画祭ディレクターのマルコ・ミュラーの発言も伝えた。「羊たちの沈黙」のジョナサン・デミ以外は無名で、英語の映画は5本だけとの嘆きも。
だが、楽しみな監督もいる。「アモーレス・ペロス」「バベル」の脚本を手がけたギジェルモ・アリアガの新作には、シャーリーズ・セロン、キム・ベイシンガーが出演。16〜26世紀に及ぶ愛とカルト的瞑想(めいそう)、妄想が混然となった「ファウンテン」が2年前にベネチアの観客の度肝を抜いた異才ダーレン・アロノフスキーほか、昨年のベルリン映画祭女優賞を受けた「イェラ」のクリスティアン・ペツォルト監督の新作は、初日の深夜0時まで及ぶ上映にも数百人の報道陣が駆けつけた。(ベネチア=宮崎陽介)