90歳を超える映画監督の新作が相次いで公開される。監督生活57年、96歳になった新藤兼人さんが、48本目の監督作となる「石内尋常高等小学校 花は散れども」を発表し、映画美術の重鎮、木村威夫さんが90歳で初めての長編監督作品「夢のまにまに」を撮った。2人がすごいのは、今も失敗を恐れず、攻めの姿勢を保ち続けていることだ。次回作にも満々の意欲を見せている。
■「やり切った感じしない」 新藤兼人監督
「石内尋常高等小学校 花は散れども」は、新藤監督の故郷・広島での体験をもとにしている。小学校教師の市川(柄本明)には実在した自分の恩師を、やがて売れない脚本家になる良人(豊川悦司)には自分自身を重ねた。
「狙いは、平凡な先生の一生ということなんですよ。平凡な偉大さと、その中にある一筋の道ですね」
恩師を一言で表現するなら、「なんでも本気」。本気で怒るが、自分の間違いと分かれば、本気で謝る。教室で居眠りをした児童をしかりつけたものの、家業の手伝いで寝不足だったと知るや、許しを請う場面はその象徴だ。
退職後は子どもたちの声を聞きたいと小学校の前に家を構えた。恩師が病気で倒れ、見舞いに訪れたときのこと。
「枕元にテレビが置いてあって、『新藤、お前のシナリオ見ているぞ』と。感動しましたね。言葉にはしっかりやれという意味が含まれていた。私だけでなく、教え子全体にそういう風でした」。一筋の道の偉大さは、自身の生き方にも影響を与えた。
「シナリオライターぐらい危なく、難しい仕事ってないんですよ。1本うまくいかないと、仕事がなくなっていく。だけど、一つの道を行かなくちゃいけないんだ、と」
広島を中心に2カ月間のロケ。今回初めて、車いすに腰かけての演出を余儀なくされた。頻繁には俳優に近づけなかったが、「引いて俳優を見ることができ、客観性がうまくいった」と前向きに考える。
不思議なシーンがある。大人になった良人が旧友の三吉(六平直政)と再会を懐かしんでいると、テーブル上のビール瓶だけが、カタッ、カタッと段階的に倒れていく。「2人とも少年のときに大きな望みを持ったけれど、大したことはなかった。だけど、それも悪くないよ、という表現なんです」
48本目でも、映画は「分からない。未知なものがある」と強調する。「まだ表現方法があるんじゃないだろうかと思いますね。今度も『いい年して』『やめたらどうか』と言う人もいたが、ビール瓶を倒したりしている。やり切ったという感じはしませんね」
今年に入り、すでにシナリオ2本を書き上げたという。
「石内〜」は各地で公開中。
■「フィルムの面白さ知った」 木村威夫監督
「夢のまにまに」の主人公は映画学校の老学院長(長門裕之)。彼が、学院の生徒で心を病んだ青年(井上芳雄)と交流する様子を中心に、妻(有馬稲子)との関係や、戦中戦後の風景などが、まさに夢のまにまに差し挟まれる。
「暗中模索、試行錯誤で作りました。出来上がった映画を見てみると、自分でも気づいていなかったことが、はっきりと意味を持ってくるのが分かるんです。監督をして初めてフィルムの不思議さ、面白さを知りました」
木村監督は60年以上、映画美術畑を歩いてきた。鈴木清順、熊井啓、黒木和雄といった大ベテランから若手まで約230作の美術を担当。国内外で高い評価を得ている。監督業に関心を持ったのは数年前。短編を3本撮り、今回の長編デビューとなった。
「友人から『監督だけはやるな』と忠告されてたんだけど」と笑う。「でも2回3回と見るとしみじみ作品がいとおしくなってくるね。作品と自分の間にこんなに強いえにしがあるなんて」
木村監督自身、日活芸術学院の学院長を務める。精神科病院に入院した元生徒との交流が胸を打つが、これはほぼ実話なのだという。
「踊るように歩く不思議な青年でね。突然いなくなったと思っていたら、『入院しました』という手紙が来た。それから手紙のやりとりが始まり、若者と老人との友情みたいなものが生まれたんです」
その頃、木村監督はこの長編の構想を練っており、必然的に物語の重要なポイントになっていった。青年の魂の激しい悲鳴と、受け止めようとする老人の必死の言葉が手紙を通じて行き交う。文面も、実際のやりとりをかなり使っているという。
一緒に仕事をした大監督たちの映像はたいてい頭に入っているが、「なるべくそのマネはしないように気を付けました」と話す。「そこそこ上手な映画なんか、作りたくない。失敗作でもいいから、ほかの人がやらない世界に挑戦したつもりです」
次回作もすでに撮り終え、これから編集に入る。老人ホームを舞台にした、元気なお年寄りたちの物語だ。
「夢のまにまに」は、18日から東京・神保町の岩波ホールで。各地で順次公開。(高橋昌宏、石飛徳樹)