ジュリアン・ムーア
●「すべては脚本の中に」
メリル・ストリープに続く米国の演技派女優を問われたら、まずこの人の名を挙げたい。
チェーホフの舞台のけいこ風景を名匠ルイ・マルが映画化した「42丁目のワーニャ」で注目されたのは女優生活10年目。遅咲きだが、その後の活躍は目覚ましい。ロバート・アルトマン、トッド・ヘインズ、ポール・トーマス・アンダーソンら名だたるクセ者監督たちに起用され、アカデミー賞の常連に。メジャー大作にも出演、「ハンニバル」ではジョディ・フォスターの当たり役クラリス・スターリングのイメージを一新した。
ポルノ女優(「ブギーナイツ」)から反体制ゲリラの闘士(「トゥモロー・ワールド」)まで役柄は多彩。よく似た設定からまったく異なる人物像を紡ぎ出すところがこの人の真骨頂だ。02年度アカデミー賞では主演(「エデンより彼方に」)と助演(「めぐりあう時間たち」)の両方で候補になったが、いずれも50年代の上品な奥様役。単色になりかねない役柄を微細なグラデーションでカラフルに塗り分け、どの作品でも唯一無二の存在感を放つのだ。
「レイフ・ファインズが言ってたわ。『頑張ってその人物になりきったはずなのに、映画の僕はいつもの顔。がっかりだよ』。まさに同感! でも、そうやって役を追い続けるのが、苦しいけど楽しいのよね」
「すべては脚本の中にある」と繰り返す。新しい脚本を手にすると「まず、その役の声を探す」という。トーンは、速さは、口調は。そこにしぐさや表情を重ねれば、組み合わせは無限。「映画は繊細なニュアンスを表現できる。ブロードウェーの大舞台にも立ったけれど、私は絶対に映画向き」
最新作「ブラインドネス」(22日公開)も医師の奥様役。爆発的に広がる奇病で盲目になった夫とともに隔離され、地獄絵図の中で収容者を救おうと苦闘する。果敢な献身の底に潜む冷血やエゴ、孤独感。すっぴんにボロボロの衣装のまま、善悪では割り切れない人間の多面性を陰影深く演じてみせた。
「映画は未来を予言できないけれど、いい映画は世界の現実を必ず映し出す。彼女が見せる多様な顔は、誰もが持ち合わせているもの。『自分なら……?』と想像を刺激する映画にこれからも出続けたい」(文・深津純子、写真・門間新弥)
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Julianne Moore 60年米国生まれ。米軍人の父の転勤で南米、欧州など9カ国で育つ。「ショート・カッツ」(93年)、「SAFE」(95年)などで評価を確立。近作に「トゥモロー・ワールド」「美しすぎる母」など。6歳と10歳の2児の母。