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〈回顧2008〉今年の映画を振り返る

2008年12月18日

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 戦後の黄金期に比べ、現代の日本映画には志の低い作品がはびこっている、との主張をよく耳にする。しかし最盛期の公開本数は500本を超えていた。つまり数本の名作を無数の凡作が支えていたのだ。凡作は淘汰(とうた)されたに過ぎない。

■硬軟共に秀作目立つ

 08年、日本映画の公開本数は412本(日本映画製作者連盟の概算)と、3年連続の400本台に達した。数年前まで200本台だったのがウソのような盛況だ。量が質を担保する。そんな命題を実証するように、日本映画は低迷期を脱し、秀作や話題作が目立った。ベネチア国際映画祭では、宮崎駿「崖(がけ)の上のポニョ」、北野武「アキレスと亀」、押井守「スカイ・クロラ」とベテラン監督がそろってコンペに参加。賞は逃したものの、世界にその力を示した。

 「ポニョ」「アキレス」が監督個人の豊かな想像力の産物なのに対し、「スカイ・クロラ」は日本の現状から生まれた作品だ。戦争のない社会を得た代償に、人々から生の実感が奪われる。そこで故意に戦争を起こして「死」を注入する。日々戦争に向き合う国からはあきれられそうだが、同様の主題で「イキガミ」(瀧本智行監督)が作られるなど、「平和ボケ」論とは別の角度から問題に迫った。

 中堅世代の監督も次々に話題作を発表した。黒沢清、是枝裕和、橋口亮輔の気鋭3人はくしくもホームドラマを素材に選んだ。「トウキョウソナタ」「歩いても 歩いても」「ぐるりのこと。」はいずれも彼らの代表作といえる作品。ホラーで培ったテクニックを、家族の不安定の描写に援用した黒沢の「トウキョウソナタ」はすべてのショットが緊張感に満ちていた。

 本数が増えれば、これまで触れにくかった社会問題に挑む冒険的な企画も現れる。若松孝二監督は「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)」で、新左翼運動がたどり着いた結末を総括した。李纓(リイン)監督が撮ったドキュメンタリー「靖国」は、全国の劇場で上映中止が相次ぎ、言論の自由への日本の成熟度に疑問符が付いた。阪本順治監督は「闇の子供たち」で人身売買や臓器売買に鋭い視線を投げかけた。極めて硬派な主題ながら、劇場には幅広い層の観客が詰めかけた。

 日本映画の好調と対照的に外国映画は寂しい1年となった。特に米国の娯楽大作が不振を極めた。海外でなじみの薄いアメコミ・ヒーローに頼るハリウッドは、もはや世界を相手にすることをやめてしまったのか。

 ただ、娯楽大作が不振な時の米国は社会派の傑作群を生む。40年前のアメリカン・ニューシネマが証明している。今年も、石油王の破滅を描く「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」や殺し屋と保安官の追跡劇を冷徹に活写する「ノーカントリー」、巨大企業と戦う男を追った「フィクサー」がアカデミー賞を争った。社会派の先達シドニー・ルメット監督が「その土曜日、7時58分」で復活したことも特筆したい。

■観客つかむ英雄不在

 しかし、それがアメリカン・ニューシネマのようなうねりになるかは分からない。社会現象には若い観客の熱狂的支持が不可欠になる。彼らが映画に求めるもの。それは主人公へのあこがれだ。自らの手本にしたくなるライフスタイルだ。「俺たちに明日はない」や「イージー・ライダー」にはそれがあった。ラストは悲劇だが、彼らの生き方は格好よく輝いていた。現代の主人公は最初から重苦しい。誰もまねたくはあるまい。

 同じことが日本にも言える。「トウキョウソナタ」の香川照之や「歩いても 歩いても」の阿部寛、「ぐるりのこと。」のリリー・フランキーにあこがれを持つ観客は多くないだろう。だからと言って「相棒」や「20世紀少年」が格好いい生き方を提示しているとも思えない。

■若手監督 台頭の予感

 若者が熱狂する主人公は、若い作り手から生まれる。その意味での注目は東京芸大大学院の映像研究科だ。1期生の池田千尋監督が「東南角部屋二階の女」で商業映画デビューし、2期生の濱口竜介監督「PASSION」はスペイン・サンセバスチャン国際映画祭に正式参加した。彼らが続々と映画界に参入してきた時、ムーブメントは起こる。そんな予感を確かに覚えた08年だった。(石飛徳樹)

     ◇

〈私の3点〉評者50音順

秋山登 映画評論家

▽「ぐるりのこと。」(橋口亮輔監督、日本)

▽「闇の子供たち」(阪本順治監督、日本)

▽「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(ポール・トーマス・アンダーソン監督、米国)

佐藤忠男 映画評論家

▽「母ベえ」(山田洋次監督、日本)

▽「そして、私たちは愛に帰る」(ファティ・アキン監督、ドイツ=トルコ)

▽「いのちの作法 沢内『生命行政』を継ぐ者たち」(小池征人監督、日本)

品田雄吉 映画評論家

▽「ノーカントリー」(ジョエル&イーサン・コーエン監督、米国)

▽「ザ・ローリング・ストーンズ シャイン・ア・ライト」(マーティン・スコセッシ監督、米国)

▽「おくりびと」(滝田洋二郎監督、日本)

秦早穂子 評論家

▽「懺悔(ざんげ)」(テンギズ・アブラゼ監督、旧ソ連〈グルジア〉)

▽「チェチェンへ アレクサンドラの旅」(アレクサンドル・ソクーロフ監督、ロシア=フランス)

▽「4ケ月、3週と2日」(クリスティアン・ムンジウ監督、ルーマニア)

柳下毅一郎 映画評論家

▽「接吻(せっぷん)」(万田邦敏監督、日本)

▽「実録・連合赤軍 あさま山荘への道程」(若松孝二監督、日本)

▽「天皇伝説」(渡辺文樹監督、日本)

山根貞男 映画評論家

▽「トウキョウソナタ」(黒沢清監督、日本=オランダ=香港)

▽「接吻」

▽「闇の子供たち」

 ◆

「回顧」を終わります。

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