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A・クリスティー原作を重鎮ボニゼールが撮る

2009年3月18日

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写真パスカル・ボニゼール監督写真写真写真「華麗なるアリバイ」(C)MOUNE JAMET

 ヌーベルバーグの旗手たちが輩出した仏批評誌「カイユ・デュ・シネマ」に多くの評論を執筆し、脚本家としても活躍中のパスカル・ボニゼール監督。新作「華麗なるアリバイ」が上映されたフランス映画祭に合わせて、今月、来日した。アガサ・クリスティーの原作を、自身が旗印にする作家性を込めて描いたサスペンスとは。(アサヒ・コム編集部)

■「感情・心理描写が魅力」

 原作はクリスティー著「ホロー荘の殺人」。彼女のミステリーは「そして誰もいなくなった」「オリエント急行殺人事件」「ナイル殺人事件」「地中海殺人事件」など、数々が映画化されてきた。「ホロー荘の殺人」は、野村芳太郎監督「危険な女たち」(85年)として、大竹しのぶ主演で映画化されたことがある。

 「若いころ、一ファンとしてクリスティーの作品を読み込んできた。だが、『ホロー荘の殺人』は読んでいなかった」と、不明を恥じるように打ち明ける。映画化の話が持ち上がったのを機に読み、「ミステリー作品だが、犯人あての推理に寄りかかり過ぎていない。女性たちの複雑な感情や心理描写に重点を置いた点に、心を引かれた」と語る。

 舞台をイギリスからフランスに移した。郊外にある上院議員夫妻の邸宅で、顔見知りが集う小さなパーティーが開かれる。優秀な精神科医ピエール(ランベール・ウィルソン)は、過敏で顔色のさえない妻クレール(アンヌ・コンシニ)と訪れる。そこには、ピエールと愛人関係にあるエステル(バレリア・ブルーニ・テデスキ)や、彼女に恋するフィリップ、フィリップに好意を寄せるマルトらが集まる。ピエールの元恋人のイタリア人女優は復縁を迫る。愛憎が静かに交錯する中、プールサイドでピエールが何者かに撃たれてしまう。現場には銃を手にしたクレール。エステルは彼女の手から銃を奪い、証拠隠滅を図るようにプールの中に投げ込んだ。女性に脇の甘いピエールに、多くが屈折した感情を持っていた。

 「感情のドラマツルギー(作劇術)に貫かれた喜劇と感傷の推理劇」。原作を、そう読み解いた監督は独自の演出を施した。

■名探偵ポワロ、登場させず

 名探偵ポワロを排したのも、その一つ。「人間の複雑な感情を描くのに、英国紳士の象徴のようなポワロはじゃまだった」。実は、クリスティー自身も自伝の中で、この作品を「探偵小説というより、むしろ普通小説」と位置づけたうえで、「ポワロを登場させたのは失敗。ポワロを抜きにしたら、もっとよくなると思い続けた」と記している。

 また、原作では殺害されたのは1人だが、この映画では女優が無残に殺され、嫉妬の深さや深層心理の危うさを突きつけられるなど、それぞれの人物に濃厚な陰影を施された。

 「思っているここと、行っていることが相反することがある。その矛盾は時に自分を責め、他者の足を引っ張る。そうした深層意識の本能をあぶり出したかった」と話す。

 ボニゼール監督はジャック・リベット、アンドレ・テシネ監督の作品には欠かせない脚本家だ。リベット監督の作品では、エマニュエル・ベアール主演「美しき諍(いさか)い女」「Mの物語」、ジャンヌ・バリバール主演の近作「ランジェ公爵夫人」とも、聖なる女性の心の深層に潜む危うさを描いた。テシネ監督の作品では「ブロンテ姉妹」「私の好きな季節」などがある。

 ヌーベルバーグを担った現役監督が、なお新作を撮り続ける姿に刺激を受けているという。「(クロード・)シャブロルは地方都市を重要な舞台にしていて、主にパリを舞台にする自分とは違う。(エリック・)ロメールとも接点がないように見える。でも、作家性が色濃い2人の作品は、刺激になっている」と語った。

 来年、東京・渋谷のBunkamuraル・シネマで公開予定。

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